コンサルティング会社のドリームインキュベータ(DI)は、6月11日に開催した定時株主総会とその後の取締役会で、創業者で代表取締役会長の堀紘一氏が「取締役ファウンダー(創立者)」に就く人事を決定した。堀氏は、73歳で後進に道を譲ることになった。
DIは会長の堀氏と社長の山川隆義氏の2名が代表権を持っていたが、今後は山川氏が唯一の代表取締役として経営を担う。
堀氏は経済界では名の通ったコンサルタントだ。1945年兵庫県生まれで、父親は駐イタリア大使、プロ野球パ・リーグの会長などを務めた堀新助氏。66年に米メリーランド州立大学へ留学。69年に東京大学法学部を卒業後、読売新聞経済部を経て、73年から三菱商事に勤務。80年にはハーバード大学経営大学院で経営学修士(MBA)を取得。81年から19年間にわたりボストンコンサルティンググループに勤務。そのうち、89~2000年5月まで日本法人の代表取締役社長を務め、同年6月に最高顧問に退く。
2000年4月、ベンチャー企業の支援とコンサルティングを行うDIを設立し、代表取締役社長に就任。02年5月に東証マザーズへ上場、05年9月に東証1部へ昇格した。
堀氏はベンチャー企業の育成という新たなビジネススタイルを業界に持ち込んだ先駆者だ。「ホンダやソニーを100社育てる」「渋沢栄一、松下幸之助を100人育てる」という、壮大な構想を持って起業したが、日本はベンチャー不毛の地であることを思い知らされることになる。日本からはアップル、グーグル、アマゾン・ドットコム、フェイスブックのようなベンチャー企業は生まれなかった。
ベンチャー育成できず無念のリタイヤ
堀氏は10年以上前に、日本のベンチャーに対する絶望を口にしている。
「ベンチャー通信」(イシン/2007年9月号)のインタビューで堀氏は、「なぜ日本はベンチャー不毛の地になってしまったのか」との問いに、こう答えている。
「日本でベンチャーと言うと、『あやしい』、『所詮は中小企業でしょ』というイメージになってしまう。そんな空気があるから、優秀な人はベンチャーに就職せず、いつまで経ってもベンチャーが育たないんです。このままいけば日本の将来は暗いと思いますよ」
日本のベンチャーに絶望した堀氏は、インドに目を向けた。DIは16年にインドのベンチャーキャピタルに出資したのを皮切りに、17年にはモバイルゲーム、ビットコイン企業、決済サービス企業、チャットバンキング、個人認証、健康管理アプリなどのベンチャー企業に出資。18年4月にはインドのスタートアップ企業に投資するファンドを立ち上げた。資金規模は50億円で、日系企業の単独運営ファンドとしては最初だ。
DIの18年3月期の連結決算は、売上高が前期比26.8%増の184億円、営業利益は3.6倍の18億円、純利益は8.9倍の8億9900万円とV字回復した。19年3月期の業績見通しは公表していない。
58.94%出資する連結子会社のアイペット損害保険が4月25日、東証マザーズに上場した。立ち上げたインドのスタートアップ企業向けの投資ファンドも寄与し、増収増益が見込まれている。
お膝元の日本では、堀氏が懸念した悪い予想が現実のもとなった。製造業の次の柱になる産業を構築できずにいる。1人当たりの国民総所得は年々落ち込み、いまや世界25位だ。
堀氏はベンチャーの育成に全力投球したが、日本では「100社のホンダやソニー」「100人の渋沢栄一や松下幸之助」を育てることができず、無念のリタイヤとなった。
(文=編集部)