セブン、なぜファミマより客単価が60円も高い? 品揃えに「雲泥の差」を生むスゴい仕掛け
営業スタイルに決定的な違い
では、なぜ同じような商品構成でありながらも、購入点数に大きな差がついてしまうのであろうか。
先ほど、コンビニ各チェーンの店内は「同じような商品構成」と言ったが、厳密に見れば、その品揃えには雲泥の差がある。
コンビニの「商品の棚割り」といわれる店舗における「商品構成の決定権(決定義務)」は、店舗が持って(負って)いるケースと、本部が主導しているケースとに大別される。そして前者がセブンで、後者はファミリーマートとローソンである。この営業スタイルの違いこそが、商品構成における「雲泥の差」を生む。
セブンのように店舗が商品の決定権を持つというのは、一見簡単そうで非常に難しい。コンビニは店舗が置かれている立地環境によって、お客様が求める商品、すなわち欲しいと思う商品にかなり大きな差が発生する。さらにいえば、同じお客様でも、朝、昼、夜でのニーズの違い、通勤途中、休み時間、帰宅前などのシチュエーションの違いによっても、欲しいと思う商品には大きな違いがある。
ガムの例で考えてみよう。朝、出勤時に自宅近くの駅前にある店でガムを購入する際に、多くのお客様が欲しいと思うガムは、満員電車の車内で噛むということが想定され、「食べやすく」「すぐに取り出せる」商品が好まれるケースが多い。つまり、コンパクトなケースに入った取り出しやすい商品の人気が、この立地環境の店では高まる可能性が大きい。
しかし、人々が駅から会社まで歩いて行くルート上に位置している店舗においては、ガムの需要は「仕事中に噛める」「デスクの引き出しなどに保存しやすい」となる。つまりボトルなどに入った大量に噛める(いつでも噛める)商品の人気が、この立地の店舗では高まるのだ。
また、同じ住宅地の近くにある駅前の店舗であっても、客層に中高年が多い店であれば、糖衣で包まれたガムよりは、昔ながらの板ガム(糖衣のカスが出にくい)に人気が集まる傾向が強く、逆に若者が多い店であれば、板ガムではパンチが効いておらず、これらよりは刺激の強いガムが人気を集める傾向になる。このように、店の置かれた立地環境や客層、お客様のシチュエーションによって、売れる商品、すなわちお客様が買っても良いと感じる商品が大きく異なるのだ。
個々の店舗が立地環境や客層などを分析し、お客様が欲しいと感じるであろう商品を、お客様が探しやすい位置に陳列してアピールする。つまりお客様に向けて最適な陳列をする「品揃えの権利を持つ・義務を負う」ということができているからこそ、セブンは「一人当たりの購入点数」が他のチェーンよりも多くなり、結果的に「客単価」の増加を果たすことになるのだ。
これによって、「セブンには、客が欲しいときに欲しい商品が揃う店」という認知が広がり、少し離れた場所であっても「セブンなら欲しいものがある可能性が高い」として、他の店舗を飛び越えて来店するケースが増加することで、「客数」「客単価(=平均単価×購入点数)」を高く維持することができているだ。「ついセブンに立ち寄っている」という話をよく聞くが、店舗毎に品揃えの権限を持っていることにその要因の大半があるといって良いだろう。
多くの人は、普段あまり意識せずにコンビニの店頭で商品を探しているかもしれないが、その売場に隠されているさまざまな工夫や仕掛けは、チェーン全体への信頼につながり、チェーン選びの重要な要素として認識されることになるのだ。細かいことの積み重ねではあるが、その一つひとつが着実に大きな成果につながっているのである。
これが、コンビニ間の「客単価の格差」の真相である。
(文=信田洋二/小売業・物流コンサルタント、Believe-UP代表取締役)