スーパーなど小売店各社は警戒を強めており、相次いで商品の値下げに踏み切っている。大手のイオンは昨年から値下げを敢行しており、その効果もあって2018年2月期の業績は好調だった。
一連の動きに対しては、一部から脱デフレに反するとの声も聞かれる。だが事業者が安値販売を行うことでデフレが進み、これが景気を悪くするというのは本末転倒な議論である。景気が悪く、売れ行きが悪いので値下げせざるを得ず、結果として物価が下がっていくと考えるべきだろう。以前、牛丼チェーンがデフレの元凶などといわれたこともあったが、値下げが景気を悪くするというのは完全な幻想である。
日本のGDP(国内総生産)のなかで製造業が占める割合は大幅に低下しており、日本はもはや製造業の国ではない。だが、現実の景気は製造業の輸出に大きく左右される。ここ1~2年、GDPの成長率が高めだったのは米国の好景気によって輸出が伸びていたからである。
だがGDPの6割を占める消費は長期にわたって低迷が続いている。モノづくりから消費経済に移行しているはずなのに、その肝心の消費が伸びていないというのが日本経済のリアルな現状といってよい。
消費が増えなければ景気は回復しない
消費が伸びない理由は、賃金が上がらない状態で物価だけが上昇していることである。政府は毎年、経済界に対して賃上げを要請しており、経済界も渋々これに応じているが、今の状態でただ賃金を上げても問題は解決しない。
最終的に賃金を決めるのは企業の生産性であり、生産性が向上しない状態で賃上げを行うと、それは物価を押し上げる効果だけをもたらし、実質値では何も変わらない。
過去5年間で日本企業の総人件費は3.2%増加したが、同じ期間で従業員の平均給与はほとんど変わっていない。つまり、従業員単体で見れば、ほとんど昇給が行われていないものの、従業員の数は増えており、企業が負担する総人件費は増大していることになる。
つまり、日本企業の経営効率は悪化が続いており、生産性向上が期待できない状況となっている。これでは賃金が上がりようがない。多くの企業が人手不足という事態に直面しているが、一方で余剰な人員も多く抱えている。つまり人材のミスマッチがあちこちで発生しており、これが賃金の上値を重くしているのだ。
こうした状況を改善するには、日本企業の経営を根本的に変える必要があるが、今の日本企業にそうした変革を進めようという気概は見られない。そうなってくると現状維持となる可能性が高く、結果として賃金も上がりにくい状況が続く。
量的緩和策は市場にインフレ期待を生じさせ、これを設備投資に結びつけようという政策だったが、消費者のデフレマインドがあまりにも強く、思ったような成果を上げることができなかった。
消費の低迷が、産業構造という根本的な部分に起因しているのだとすると、金融政策だけでこの状況を変えることは難しい。結局のところ、消費を回復させられるのかどうかは、現状を変える決断ができるのかにかかっている。
(文=加谷珪一/経済評論家)