経済が低迷するなか、百貨店業界では収益力の向上や規模の経済効果の発揮などを目的に、経営の統合が進んだ。2008年4月に三越と伊勢丹が経営を統合し、今日の三越伊勢丹が誕生した。
生き残りのために経営を統合することは重要だ。その上で企業に求められることは、経営統合によるシナジーを活かして、新しい取り組みを進めることだ。これまでの三越伊勢丹の経営を見ていると、その発想が感じられない。
12年からは「伊勢丹メンズ館」の生みの親といわれる大西洋氏が社長に就任し、経営の立て直しにあたった。しかし、大西氏の改革は成果を挙げることができなかった。なぜそうなったかといえば、三越伊勢丹が従来にはなかった百貨店での消費体験を人々に提供することができなかったからだろう。その結果、大西氏は求心力を失い、組織内の対立を招いたとの見方もある。14年4月の消費増税後も業績は伸び悩み、17年3月に大西氏は社長を退任した。その後も、三越伊勢丹の売上高は減少トレンドを抜け出せていない。
顧客層の変化
業績の低迷が続くなか、三越伊勢丹の収益力回復につながると期待される変化も起きている。それが、“インバウンド需要”だ。「インバウンド(inbound)」は「内部に向かってくる」という意味を持つ。つまり、インバウンド需要とは「海外から国内にもたらされる需要」のことだ。代表的なものに観光がある。
15年から三越伊勢丹は、首都圏でのインバウンド需要の取り込みに注力してきた。同年1月には、三越伊勢丹旅行が設立され、中国などからの訪日外国人客の取り込みが重視された。これは当時、国内小売業界の業績をけん引した中国人観光客による“爆買い”需要を狙ったものだ。その後、16年1月に三越伊勢丹は、銀座三越に市中免税店である「Japan Duty Free GINZA」をオープンした。
その後、中国政府による規制強化から爆買いが落ち込んだ。ただ、中国を中心に海外からの観光客は増加傾向を維持している。その上、インバウンド需要はわが国の地方に向かっている。
三越伊勢丹の店舗別売上実績を見ると、それがよくわかる。17年度、伊勢丹新宿本店や日本橋三越、銀座三越を傘下に持つ株式会社三越伊勢丹の売上高は、前年から115億円少ない約6500億円だった。一方、札幌丸井三越と福岡の岩田屋三越は前年から売り上げを増加させた。これは、北海道や福岡への外国人観光客の需要を取り込むことができたからだ。