条件付対価の公正価格というのは、コインチェックの19年3月期から21年同期までの当期純利益合計額の2分の1を上限とし、一定の事業上のリスク(ネム流出に伴う訴訟費用などを想定)を差し引いて算出される。条件付対価の公正価格が10億円から18億円に増えれば、差額の8億円をマネックスGは費用として計上することになる。利益が出ず赤字になればマネックスG全体の業績の足を引っ張り、利益が出れば出たで買収価格が上振れすることになる。
マネックスGは昨年10月、“第2の創業”を宣言。仮想通貨やブロックチェーン(分散型台帳)に取り組むとして、18年1月、仮想通貨研究所を設立した。コインチェックの買収で仮想通貨参入への時間を買ったのである。ブロックチェーンは仮想通貨の基礎技術で、大きな可能性を秘めている。
松本氏はコインチェックを買収した狙いについて「ブロックチェーンのエンジニアは、社内にそれほどいなかった。そこで、仮想通貨分野ではるか前方にいるコインチェックと一緒に取り組むことにした」と語っている。
マネックスGは金融庁に「コインチェックを仮想通貨の登録業者にする」申請を行っている。正式に認められ次第、仮想通貨の取引を全面的に再開する意向だが、当初目指していた6月から、かなり遅れている。
松本氏は決算発表の席上、コインチェックについて「長い目で、かつての収益力を取り戻したい」と述べた。
バブルの再来はあるのか
コインチェックは果たして、驚異的な収益力を取り戻すことができるのか。それを実現するには、バブルの再来しかないだろう。だが、投機熱は冷めた。
代表的な仮想通貨であるビットコインの、1日当たりの世界の取引量は5000億円程度にとどまる。2.5兆円もあった17年と比べると、熱気は消し飛んでしまった。なぜなら、日本では仮想通貨の売買を始めた人の大半が損をした、といわれているからだ。
国税庁は5月25日、2017年に仮想通貨取引を含めた収入が1億円以上あったと申告したのは331人だったと発表した。仮想通貨の高騰で1億円以上の資産を築いた人は、大ヒットした映画のタイトルをもじって「億(おく)り人」と呼ばれたが、億り人は331人にとどまった。
国内で仮想通貨を取り引きした人は350万人。「申告せずに脱税した人が多かったのではないか」といった冷ややかな声も上がったが、実態はどうだったのか。仮に全員が正しく申告したとして、1億円以上稼いだのが331人なら、億り人は取り引きした人の0.0000945%にすぎないことになる。