赤字を黒字に換えるマジックのタネ明かしをしよう。会計基準を変更したのだ。15年3月期決算から日本会計基準を国際財務報告基準(IFRS)の適用に変えた。日本会計基準では、のれん代の償却が毎年必要だが、IFRSはのれんの償却の必要がない。14年3月期に遡ってIFRSを適用すると最終赤字が20億円の黒字になり、15年同期は45億円の黒字となった。
ワールドは05年、MBOで上場廃止になった未上場企業であるため、IFRSを適用する必要はない。IFRSに変更した理由は、黒字決算にするためだったといわれている。
再上場の真の狙い
二発目の驚きは、過去最大規模の事業の見直しだ。16年3月期に、全店舗の15%前後似あたる400~500店を閉店。併せて10~15の不採算ブランドを廃止した。赤字店舗だけでなく、利益が出ていても収益性の低い店舗も閉鎖した。それに伴い、社員の4分の1を早期退職させた。いずれも、16年3月期から18年3月期までの3カ年にわたる構造改革の一環である。
18年3月期連結決算(IFRS)の売上高にあたる売上収益は前期比1.7%減の2458億円、当期利益は同17.3%減の67億円と減収減益だった。実店舗による売り上げの伸びは、もはや期待できない。
今後は、百貨店などの実店舗からネット通販に経営の軸足を移す。ワールドは今年4月、古着専門のセレクトショップを運営するティンパンアレイと、衣料品のレンタルサービスを手がけるベンチャー企業、オムニスに出資した。ネット通販分野の強化が狙いだ。
ネット通販を経営の主柱に据えるには、電子商取引(EC)の基盤づくりなどに資金が必要となる。再上場により、この資金を調達する狙いだ。
再上場の真の狙いは、MBOによって財務を圧迫した負の遺産の解消とみられる。現在、日本政策投資銀行が運営するファンドが普通株式の50%近くを保有。優先株も大量に残っている。残りの株式は寺井秀蔵会長ら創業家一族が持っている。株式再上場の際に売り抜けてもらうことを意図している。
ワールドの創業家一族が失敗したMBOのツケを、もし株式の再上場で払い切ることを狙っているとしたら、本末転倒だろう。MBO失敗のツケは創業家が払うべきで、株式市場を利用するのは筋違いだ。
ちなみに、ワールドは「不採算店舗の削減など構造改革に一定のメドがつき、デジタル事業など新規事業へ投資するための資金調達手段が必要と判断し、再上場を決めた」と説明している。
(文=編集部)
※追記
●初値は2755円。公開価格を5%下回る
ワールドは東証1部に再上場した9月28日、公開価格(2900円)を5%下回る2755円で初値をつけた。高値は2779円、安値は2600円、終値は2680円で公開価格を8%下回った。
高い知名度がある企業だが、非上場の時代に再成長のシナリオを描くことができず、時価総額(初値に基づく時価総額は997億円)はMBO(上場廃止)直前より6割減少した。
今回の上場でも人気はなく、公開価格は仮条件の下限で決定。公開価格は上場承認時に示された目論見書記載の想定発行価格3630円との比較で20%も低い水準で決まった。しかし、割安と感じる投資家は少なく、買い物は入らなかった。「成長の道筋が見えない」(市場関係者)との声が聞かれ、厳しい船出となった。
公開価格割れの発進は今年4社目である。
上山健二社長は記者会見で「新しい株主や投資家の厳しい評価として厳粛に受け止めている」とした上で、「強烈に株価を意識した経営をしていく」と宣言した。
再上場で調達した570億円の半分以上は、ワールドが手掛けていない分野の新興勢力へのM&Aや投資(200億円)とデジタル化のためのシステム投資(100億円)に充当する。