9月11日、ルネサスエレクトロニクスが米国の半導体企業であるIntegrated Device Technology, Inc(IDT)を完全子会社にすると発表した。
足許の市場環境やルネサスの経営状況を考えると、今回の買収劇に懸念されるポイントは多い。まず、買収金額が高額になることだ。ここ数年、世界の半導体市場は右肩上がりの成長を維持すると期待が高まっている。その期待に支えられ、世界的に半導体関連銘柄は最高値圏で推移している。IDTも例外ではない。
ルネサスの経営状況を考えると、経営再建は道半ばというところだろう。同社はリストラによって黒字を確保できるようにはなったものの、構造改革のなかで重視されたプロダクトミックスの改善が進んできたとはいいづらい。
ルネサスはIDTの買収に7,330億円程度を投じる。2017年2月に買収したインターシルと合わせ、半導体市況が過熱感を帯びるなかで合計1兆円超の買収が経営に与えるマグニチュードは軽視できない。今後もルネサス経営陣は買収戦略を重視するだろう。経営陣が具体的かつ明確に買収の目的を説明するか否かは、同社の成長を考える重要なポイントだ。
ルネサスの収益を支えたリストラ
2014年3月期までルネサスの最終損益は赤字だった。2015年度から、最終損益は黒字に転じた。黒字化を支えたのはリストラ=構造改革だった。問題は、人員削減などが一巡した後の競争力強化の取り組みが、十分に進められていないと考えられることだ。この問題を、同社の経営トップ人事を基にして考えたい。
ルネサスの源流は、日立製作所と三菱電機の半導体事業にさかのぼる。この2社の事業が統合されて、ルネサステクノロジが設立された。2009年にはNEC傘下のNECエレクトロニクスがルネサステクノロジと事業を統合し、今日のルネサスが誕生した。2009年4月の時点で、ルネサスは世界3位のシェアを持つ半導体企業だった。
ルネサスでは母体となった企業ごとに工場を守る=源流企業のアイデンティティーを維持することが優先され、収益性が高まらなかった。そのなかで、リーマンショックや東日本大震災が発生し、市場参加者から「ルネサスの自力再建は難しい」といわれるまでに経営が悪化した。
ルネサスを救ったといわれているのが、オムロンの成長を実現した作田久男氏だった。2013年6月、作田氏はルネサスの会長兼CEOに就任し、8月以降ルネサスはリストラに本腰を入れた。それができたのは、作田氏に母体となった企業との“しがらみ”がなかったからだろう。