アイデンティティのシグナリングに適した手段として、特定のイメージが形成されたブランドの使用があります。エスカラスとベットマンは、内集団と外集団にはそれぞれのメンバーに共通して採用されるブランドがあると考えました【註5】。
そこで、彼らは大学生を対象とした調査を行い、内集団と外集団、ならびに各集団と一致するブランド(その集団が使用していると思うブランド)を挙げてもらい、それらのブランドについて「自己とブランドの結びつき」を測定しました。その結果、自己とブランドの結びつきは、内集団と一致するブランドのほうが一致しないブランドよりも強いことがわかりました。消費者は、内集団と一致するイメージを持つブランドに対し、より強いつながりを感じることが示されています。
参考までに被験者の回答を一部紹介しますと、アカデミック集団を内集団とした被験者(大学生)は、一致するブランドとしてGUESS、一致しないブランドとしてLevi’sを挙げ、この被験者にとっての外集団はアスレチック集団であり、その集団と一致するブランドにはNikeを、一致しないブランドにはGucciを挙げました。
この結果は、消費者が内集団のテイストとは似ていたいが、外集団のテイストとは違っていたいと考えることを示唆しています。この考え方について、バーガーとヒースがハーレー・ダビッドソンを例に挙げて、次のように説明しています【註4】。
まず、ハーレーに乗っている人の多くが一見してタフな男性たちだったとします。すると、ハーレーには「タフな男」というイメージが定着するので、ハーレーに乗ることによってそのアイデンティティのシグナリングが可能になり、類似する人たちがますますハーレーに乗るようになります(内集団への接近)。しかし、ここでまったく違う印象の人たち(外集団)が、タフに見られたいという動機からハーレーに乗り始めると、ハーレーはそのアイデンティティのシグナル力を失っていきます。やがてタフな男性たちがハーレーに乗らなくなると(外集団からの離反)、ハーレーは「タフな男に憧れを持つ男」「タフになりたい男」というアイデンティティのシグナルに変わってしまうのです。
これはあくまで例ですが、こうした選択はアイデンティティが重視される製品やサービスでは生じやすいのです。ブランドイメージは、ユーザーの特徴の影響を受けるのです。