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白井美由里「消費者行動のインサイト」

ハーレーが「タフな男」ではなく「タフな男に憧れる男」というイメージを発する現象

文=白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

使用者のマジョリティが誰であるかの重要性

 そこでバーガーとヒースは、特定の製品やサービスを好んでいる消費者の大部分が内集団、あるいは外集団で占められるとしたときの選択への影響を調べました【註4】。19種類の製品やサービスを対象とした分析から、アイデンティティとの関連性が高いカテゴリーにおいて(ヘアスタイル、音楽ジャンルやアーティスト、ジャケットなど)、選好者が内集団で占められた場合のほうが外集団で占められた場合と比べて、選択率が高くなったことを明らかにしています。また、この現象は、被験者がアイデンティティを意識しているときに見られ、機能性に焦点を当てているときには生じなかったことも確認しています。

 バーガーとヒースはさらに研究を発展させ、なぜ消費者が外集団の選択する製品やサービスが避けようとするのかを分析し、「将来の恋人に出会う機会が失われる」「自分と友人になりたいと思う人との出会いが失われる」といった、アイデンティティ誤認による機会ロスが大きくなることが原因であることを実証しています【註6】。

 チャンらも類似の分析を行い、消費者が内集団の採用する製品やサービスを好むのは、内集団の一員でありたいという欲求が原因となっていることを実証しています【註7】。

内集団への接近と離反

 チャンらはさらに、内集団の好むブランドを選択した後は、そのブランドのなかで人気の低い属性をもつものが選ばれることを分析しています。彼らが行った実験では10種類の製品やサービスを対象としていますが、その内の一つを例として示すと、シルバーとブラックのBMW、シルバーとブラックのメルセデス・ベンツの4つの車を提示し、このなかでシルバーのBMWが最も好まれているという情報(100人中60人)と、この内の77%が内集団(あるいは外集団)であるという情報を与え、好きなブランドを一つ選択してもらいました。

 その結果、被験者は内集団の多くが好むブランド(この例ではBMW)を選択するものの、カラーについては、独自性欲求があるときに人気の低いカラー(この例ではブラックのBMW)を選択することが示されました。つまり、ブランドは内集団に合わせても、カラーなどのブランド内の属性については内集団との差別化をはかったため、「ほどよく似ているブランド」が選択されたのです。この選択によって、似ていたいと違っていたいという2つの動機が満たされたことになります。

 以上見てきたように、アイデンティティに関連する選択は、他者の影響を受けます。消費者は、ブランドは内集団の選ぶものに合わせても、カラー、デザイン、フレーバー、模様などの付随する属性では差別化をしたいと考えることがわかりました。したがって、チャンらも指摘していることですが、売り手はいくつかの選択肢、あるいはカスタマイゼーションを提供することによって、ほどよい差別化を求める消費者のニーズに応えることができると言えます。カラーやデザインは人気の高いものや流行のものだけに限定しないほうが、ターゲットとする消費者をより多く惹きつけられる可能性が高くなると思われます。
(文=白井美由里/慶應義塾大学商学部教授)

参考文献
【註1】Berger, J. (2016), Invisible Influence: The Hidden Forces That Shape Behavior, Simon & Schuster.
【註2】Tajfel, H. and J. C. Turner (1986) “The Social Identity Theory of Inter-group Behavior” in S. Worchel and L. W. Austin (Eds.), Psychology of Intergroup Relations, Nelson-Hall.
【註3】McGuire, W. J. (1974), “Psychological Motives and Communication Gratification”in J. G. Blumer and C. Katz (Eds.), The Uses of Mass Communications, Sage.
【註4】Berger, J. and C. Heath (2007), “Where Consumers Diverge from Others: Identity Signaling and Product Domains,” Journal of Consumer Research, 34 (2), pp. 121-134.
【註5】Escalas, J. E. and J. R. Bettman (2005), Self-Construal, Reference Groups, and Brand Meaning,” Journal of Consumer Research, 32 (3), pp. 378-389.
【註6】Berger, J. and C. Heath (2008), “Who Dives Divergence? Identity Signaling, Outgroup Dissimilarity, and the Abandonment of Cultural Taste,” Journal of Personality and Social Psychology, 95 (3), pp. 593-607.
【註7】Chan, C. J. Berger, and L. V. Boven (2012), “Identifiable but Not Identical: Combining Social Identity and Uniqueness Motives in Choice,” Journal of Consumer Research, 39 (3), pp. 561-573.

白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

学部
カリフォルニア大学サンタクルーズ校 1987年卒業
大学院
明治大学大学院経営学研究科
1993年 経営学修士
東京大学大学院経済学研究科
1998年 単位取得退学
2004年 博士(経済学)
慶応義塾大学 教員紹介 白井美由里 教授

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