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片山修「ずだぶくろ経営論」

パナソニック、社外取締役たちが驚いた「消費者目線の欠如」「内向き志向」

文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

大田 全然違いますよ。00年当時は非常に内向きでした。私を含めた外部アドバイザリーボードを交えた場でも社内用語がボンボン出てきて、外の目をまったく意識していない。家電を扱っているのに消費者目線とは程遠いし、女性をまったく生かしていなかった。

 松下電器って、もっと面白い会社だと思っていたのに、“内向き”にかける時間が多すぎて、まったく面白くない会社になっていました。90年代の世界経済の構造変化についていけなかったのは、変化に対して柔軟に受け止めて対応する体制になっていなかったからです。組織にはレイヤーが多くて、忖度とリスクヘッジの塊で、目詰まりが起きていました。

片山 13年に社外取締役に就任されました。パナソニックの取締役会は、いかがでしたか。

大田 私が入る前は、取締役会は短ければ短いほどよかったらしいんです。でも、私は空気を読まないことにして、とにかく発言すると決めました。うるさいと思われてもかまわない。『何かご意見、ご質問は?』といわれた途端、真っ先に手を上げて、とにかくしゃべる。あらゆる議案に意図的に発言することにしました。

片山 それから5年が経ちます。

大田 今は取締役会に仰々しさはありませんよ。決定的に変わったのは、16年に冨山和彦さんが加わってからですね。私が一番にしゃべらなくても、冨山さんがしゃべってくれるようになりました(笑)。

片山 パナソニックの経営戦略も変わりました。

大田 そうですね。パナソニックは「雑貨屋」といわれるほど、なんでもつくっている。電子基板の中に使うフィルムまで自前でつくっている。こうしたものは、「どのように生かすか」というトップの戦略がクリアになって、初めて強みとして生かされます。縦割組織である限り生かせなかったものが、「クロスバリュー」の戦略が明確になったことで、ようやく生きてきていると思います。

パナソニック、社外取締役たちが驚いた「消費者目線の欠如」「内向き志向」の画像3パナソニック社外取締役・冨山和彦氏

冨山和彦氏

 経営共創基盤パートナーでCEOの冨山和彦氏は16年、パナソニック会長の長榮周作氏に乞われて社外取締役に加わった。

片山 パナソニックの近年の変化を、どう見ていらっしゃいますか。

冨山 国内家電メーカーは消えちゃった会社が多いなかで、パナソニックはサバイブしてきたわけですから、よくがんばっていると評価しています。改革は、まだ始まったばかりですけどね。

 創業以来100年の慣性が働いている会社で、落ちていくのをなんとか方向転換することだけで、結構辛いことなんです。パナソニックからは、21世紀の新しい環境に適応し、変化して、もう一度新しいモデルで発展をしていくんだという強い意思を感じたので、取締役を引き受けました。

片山 パナソニックが津賀社長就任以降、B2CビジネスからB2Bビジネスに舵を切ったことについて、どう評価されますか。

冨山 これは、明らかに正しいです。サムスンやアップルが設計して勝っているビジネスの世界は、猛烈なグローバル大量生産モデルです。このゲームは、すさまじいスピードの意思決定と変化を必要とするため、日本的な経営は向いていないんですよ。

片山 では、テスラとの提携についてはいかがですか。

冨山 戦略論として、テスラに深くコミットすることには賛成しています。まず、自動車市場全体が電気自動車に向かうことは、パナソニックにとってポジティブな話です。そしてテスラは、その橋頭堡というか、いわばデストロイヤーで、さきがけて世界を変えようとしている会社ですから、それを応援するのは正しい。

 電池や半導体の事業は、世界のトップをとりにいくか、一切やらないか、オールオアナッシングで、7位や8位を目指すというのは、あり得ないビジネスです。その意味でも、巨額の投資は間違っていない。

 例えば、ゴールドラッシュで儲かったのは、金を掘った人ではなく、金を運ぶために鉄道を通した人や、金を掘る人が履くジーンズをつくった人ですよね。同様に第4次産業革命で儲かるのは、半導体と電池をつくる人です。

 将来的に世の中は半導体と電池だらけになるというのが、私の見方です。半導体と電池の両方を手掛けると、どちらも巨大投資が必要ですから難しい。パナソニックは、その一方の電池に投資する。これは正しい。全体を見ると、住宅や家電が安定したビジネスになっていますから、ポートフォリオとしても健全です。

片山 コーポレートガバナンスについては、いかがですか。

冨山 会社の形、あるいは文化、DNAがもっとも凝縮されるのは取締役会であり、経営者の在り方や選ばれ方です。ですから、会社の文化を変えるときに、ガバナンス改革が極めて大きな意味を持ちます。CEOの役割がもっとも大事になります。

 CEOの役割は、かつては精神的支柱などといわれる時代がありましたが、今はもっと戦略的な役割が求められます。ですから、どんなパーソナリティを持った人がCEOを務めるかは、ものすごく重要な意味を持っているんですよね。

片山 では、津賀さんを、どう評価されますか。

冨山 わかりやすいですよね。まず、事実認識をかなり正確にする。そして、事実をすっきりモデル化したうえで、きわめて合理的な結論を出す。情緒的ではないので、予測可能性の高い経営者です。外に向けたパフォーマンスは、しなさ過ぎるくらいしないので、その意味ではちょっと損をしているかもしれないけれど、パナソニックのような組織で改革に成功するタイプは、意外にああいうタイプかなと思っています。
(文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家)

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

愛知県名古屋市生まれ。2001年~2011年までの10年間、学習院女子大学客員教授を務める。企業経営論の日本の第一人者。主要月刊誌『中央公論』『文藝春秋』『Voice』『潮』などのほか、『週刊エコノミスト』『SAPIO』『THE21』など多数の雑誌に論文を執筆。経済、経営、政治など幅広いテーマを手掛ける。『ソニーの法則』(小学館文庫)20万部、『トヨタの方式』(同)は8万部のベストセラー。著書は60冊を超える。中国語、韓国語への翻訳書多数。

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