東京地裁は20日、東京地検特捜部が申請した日産自動車のカルロス・ゴーン前会長とグレッグ・ケリー前代表取締役の勾留延長を認めない決定をした。検察が扱う事件で、勾留延長が認められないのは極めて異例だという。これに対して東京地検は同日、勾留延長を認めなかった東京地裁の決定を不服として準抗告したが、裁判所は却下した。今回の裁判所の判断は、日産の日本人幹部と特捜部にとっては意外だったであろうし、彼らが描いているシナリオの潮目の変わりを示すものかもしれない。
ゴーン氏の金融商品取引法違反での起訴は、理解できるが、奇妙なことがひとつある。株主にとって重大な同法違反は、本連載前回記事で述べたように、貸借対照表と損益計算書の虚偽記載だろう。最近でいえば東芝の決算粉飾事件があるが、2014年度決算での粉飾額は2248億円といわれている。ゴーン氏の90億円とは桁が違う。
しかし、東芝の粉飾にかかわった3代の社長は逮捕されていない。一般の社会通念からすると、東芝の社長が逮捕されず、ゴーン氏が逮捕されるのは、すんなりとは納得がいかないのではないか。そのため、アメリカやフランスでは、この点が理解できないと指摘されている。
遅ればせながら東京地検特捜部は12月10日、虚偽記載が長期にわたるため「両罰規定」を適用し、日産の法人としての責任を問う必要があると判断して、日産を起訴した。しかし、ゴーン氏を先に逮捕して、その後で日産を起訴するというのは適切なのであろうか。いくら大きな権力を持つゴーン氏とはいえ、個人が長年にわたり、これだけの大企業で有価証券報告書の虚偽記載を行うことができるのだろうか。有価証券報告書の改ざんには、外国人であるゴーン氏とケリー氏だけでなく、総務部や財務部などが協力していた可能性はないのだろうか。
報道にもあるように、証券取引等監視委員会が数年前、ゴーン氏の指示とみられる会社資金を使った不正な投資について、日産側に指摘していたことがわかっている。日産は、ゴーン氏に再三是正を求めたが拒否されたと報じられているが、オーナー企業ならばいざ知らず、一部上場の大企業でこのようなことを個人の判断でできるのだろうか。日産もこの事実を認識していた可能性もある。
また、日産は監査法人から2013年ごろを中心に、オランダの子会社が設立目的である投資に沿った業務を行っているのか、複数回指摘を受けていたという報道もある。つまり、日産は組織として、今回の経緯を認識していたはずである。よって、ゴーン氏の逮捕より日産の立件が先にくるべきではないだろうか。海外の報道では、「不正確な証券取引所への申告は、通例、企業や監査役が責任を負うもの」「ゴーン氏が(日産の)会計部門全体を欺いたというのか」などと、トップ逮捕に至った責任追及に疑義が呈せられている。