その上で、同社はテレビや炊飯器、エアコンなどの家電商品を手掛ける総合家電メーカーとしての地位を確立しようとしている。いずれも、国内大手メーカーの商品よりも価格が安く、性能と品質も十分との評判を受けているようだ。
また、同社は家電などの生産を中国などで行ってきた。ニトリやユニクロ(ファーストリテイリング)のように、国内で生産を行うのではなく、海外で生産を行う企業は増えている。理由は、低価格の実現と為替リスクの抑制だ。特に、為替リスクは無視できない。国内で完成品をつくり輸出するビジネスモデルの場合、円安が収益に大きな影響を与える。ただ、1973年に主要国が変動相場制度に移行して以降、為替市場では円高が進んできた。そのため、生産拠点の海外移転は円高への対応等のために重要だ。
消費者が納得できる価格の設定
ビジネスモデルの変革に加えて重要なのが、同社の価格戦略だ。アイリスオーヤマは自社の都合で機能を考え、それを基に価格を設定していない。反対に、同社は消費者が受け入れやすい価格帯を絞り込み、それに見合った機能を実装してきた。その発想を基に、プラスチック用品から食品、家電に至るまで、生活に必要なものはすべて事業の対象になりうるというのが、アイリスオーヤマの基本スタンスだ。
LED市場への参入などを見ていると、アイリスオーヤマは、既存のテクノロジーの重要性を確認しつつ、大胆に価格競争を仕掛けることによってシェアを獲得してきたとさえいえる。これは、口で言うほど容易なことではない。なぜなら、多くの場合、企業の経営者は競争に勝つことを重視しがちだからだ。従来にはない新しく、革新的なテクノロジーを搭載した新商品を開発して市場に投入し、大きな成功を手に入れたいというのは、多くの経営者に共通する考えだろう。それは、企業が成長を遂げ付加価値を生み出すために重要な要素だ。
これを端的に表したのが、「プロダクトアウト」の考えである。プロダクトアウトとは、企業の発想に基づいて商品を開発し、販売することをいう。企業の発想や都合に合わせて家電製品などの商品開発を進めるのがプロダクトアウトである。ただ、常に企業の発想が消費者のニーズにマッチしているわけではない。そのため、市場調査などを行い、消費者の願望などを商品に反映させる考えが重視されるようになった。それが、「マーケットイン」の発想である。