これに対して、アイリスオーヤマのアプローチは異なる。同社は一定の機能を満たし、他のメーカーよりも安く価格を設定することを重視している。これは、モノを販売するうえで決定的に重要なポイントだろう。スマートフォン市場では、アップルのiPhoneの販売が伸び悩んでいる。そのシェアを中国などの新興メーカーが奪っている。これは、機能面での差別化がどこかで行き詰まり、最終的には価格の高低が消費者の意思決定に大きな影響を与えることをよく示したケースだ。
デフレ経済とアイリスオーヤマの成長
低価格かつ満足できる製品の提供を通してアイリスオーヤマは成長してきた。その要因として、わが国の経済がデフレ環境(広範なモノの価格が持続的に下落する経済状況)にあったことの影響も無視できない。物価が下落する背景には、実質ベースでの賃金水準が高まらず、需要が低迷してきたことがある。
言い換えれば、わが国では多くの人がどうしても手に入れたい、欲しいと思う最終製品が生み出されづらい状況が続いてきた。その結果、類似の機能を持った商品が多く登場し、価格が差別化の重要な要因になったと考えられる。
そのなかで、アイリスオーヤマは既存のテクノロジーを取り込み、価格面で消費者心理に訴える便利なモノを開発してきた。それが消費者の満足感と支持を獲得し、同社の売上高が増加してきた。また、同社の売り上げの60%程度を新商品(発売から3年以内の商品)が占める。このデータを見ると、同社には社員のアイディアを活かして、スピーディーに商品開発を進める文化があると考えられる。
今後期待したいのは、同社が既存テクノロジーを活かした低価格商品を生み出すことに加え、自ら新しい発想の実用化を目指すことだ。すでに、同社は国内大手企業に勤めたエンジニアなどの中途採用を積極的に行っていると報じられている。専門家の知識などを活かしつつ、低価格の製品に加え、従来にはない機能を持つ製品を開発することができれば、従来とは異なった展開があるだろう。そうした取り組みが進めば、家電だけでなくさまざまな分野が、アイリスオーヤマの事業ポートフォリオに組み入れられていくことも考えられる。
アイリスオーヤマは上場企業ではない。その分、株主との利害調整などにかかる時間やコストを減らし、環境の変化にダイナミックに適応していくことができるだろう。親から子へと経営の世代交代が進むなか、同社が従来以上のスピードで新しい商品だけでなく、新しいテクノロジーの開発やその実用化にコミットする展開を期待したい。そうした取り組みが増えることが、わが国がデフレ経済から脱却するためにも欠かせない。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)