購入代金の残金約49億円を支払った同年6月1日、積水ハウスのスタッフが旅館の中に入ろうとしたところ、本来の土地所有者から相談を受けた警視庁大崎署員から任意同行を求められた。それでも積水ハウスは「取引を妨害しようとしている人物の仕業」と判断した。
6月9日、法務局から登記申請を却下する通知が届いた段階で、積水ハウスはようやく相手側が所有者を偽っていた事実を理解した。真の土地所有者である老婦人は、その直後の6月24日に病院で息を引き取った。
積水ハウスは8月、土地取引で事故があったと公表。17年2~7月期に約55億5000万円の特別損失を計上した。地面師側は、積水ハウスから約7億5000万円分の不動産を購入する契約を結んでいたが代金は支払っていない。積水ハウスは、この留保金額分を除く約55億5000万円を実質被害として損失計上した。
報告書は「なんら疑いを差し挟まないまま契約を急いだ」と批判し、阿部俊則社長を含むさまざまな部門のリスク管理が不十分だったことが根底にあったと指摘した。
地面師詐欺事件の経営責任をめぐり解任合戦
この事件の経営責任をめぐり、会長が社長を解任しようとしたが、逆に返り討ちに遭う“クーデター”が起きた。
先の報告書が取締役会に提出された18年1月24日の出来事だった。新聞各紙の報道を総合すると、以下のような具合だった。
午後2時から始まった取締役会では、まず議長の和田会長(当時)が、地面師詐欺事件でもっとも責任が大きい阿部社長の退任案を提示した。積水ハウスの取締役は社外を含めて11人いる。当事者の阿部氏は退室し、10人による採決となった。結果は賛成5、反対5。賛否同数となったため、和田氏の動議は成立しなかった。
席に戻った阿部氏の反撃が、すぐさま始まる。稲垣士郎副社長(現副会長)を議長とすることを提案し、これを6対5で通す。その後、緊急動議で和田氏の解任を提案した。和田氏を除く10人の意見は賛成6、反対4。和田氏は辞任せざるを得ない状況に追い込まれた。
和田氏を放逐するクーデター事件を伝えた会員制情報誌「FACTA」(2018年3月号)は、『積水ハウス「老害」会長を放逐』と報じた。