それから、横浜スタジアムとの契約の見直しを行いました。例えば、これまでチケット売上総額の25%を横浜スタジアムに支払ってきましたが、その契約を見直し、13%に引き下げることで合意しました。同時にそれに伴う諸条件を見直し、観客動員数、及びチケット売上が従来と同じであれば、横浜スタジアム側の収支が従来のそれを担保するようにしました。そうすることにより、チケット売上が伸びれば利益貢献は大きくなり、企業努力をして成果が上がれば、それはそのまま売上と利益に反映される。つまり、球団も、スタジアムも、お互い頑張れば、その分しっかり成長できる、という仕組みにしたわけです。
–改革の効果はいかがでしたか?
池田 1年目だった昨年は、参入してからシーズンが始まるまでの時間がなかったので、戦略的に話題づくりに努めました。それがメディアを通して多くの方に伝わることで、「球場に行ってみようか」という興味や関心を持ってくれる人が少しでも増えればと思いました。
プロ野球全体の観客動員数が減少傾向にある中で、それまで実際は100万人ぐらいだった観客動員数が12年シーズンは117万人に増えました。話題づくりは一定の効果があったと思います。その結果、年間30億円近い赤字を20億円弱まで減らすことができました。
●観客動員数を増やす施策
–2年目の2013年シーズンでは、どういう取り組みをされているのですか?
池田 「観客動員数を増やしたい」という思いは今年も同じです。球場を大きくして収容人数を増やすというのも一つの選択肢ではありますが、駅から非常に近いという立地条件の良さのために、逆にスペースが限られ、米国のメジャーリーグの球場のようないわゆる“ボールパーク”に進化するということは物理的に難しい。そこで、発想を転換して、小さな球場のままで観客動員数を増やすために、「コミュニティボールパーク化構想」を掲げました。
コミュニティボールパークとは、野球をきっかけに、野球が好きな人も野球を見たことがない人もいろいろな人が集い、その集った人たちが野球をきっかけとして、それまで見ず知らずだった人たちともコミュニケーションを育む、そういう地域のランドマークになりたいという考えです。
今はライフスタイルが多様化してきて、テレビの地上波でも野球はメインコンテンツではなくなってきています。グループで球場に来ても、それぞれが一人席に横一列に座り、野球だけに集中する、そういう観戦スタイルも多様化すべきと考えていますし、球場のあり方そのものも変わっていかなければいけないのではないでしょうか。小さい子どもがいても家族と一緒に楽しい。あるいは野球仲間や会社の同僚たちなどの大人数や少人数のコミュニティでもいい。何人で来ても、野球をきっかけに会話しながらその空間にいることを楽しむことができる。そういう空間と時間が球場にも求められているのではないかと思います。
コミュニティボールパーク化の初年度は、横浜市や横浜スタジアムとも三位一体の協力体制のもと、横浜スタジアムにおいて創業依頼ともいえる球場の大改修が実現しました。一塁側と三塁側のファウルゾーンに設けられた「エキサイティング・シート」、2人用の「ツイン・シート」や3人用の「トリプル・シート」、そして3~5人座れる「BOXシート」などの多様なシートを新たに設置しました。特に、「エキサイティング・シート」はファウルラインから2.5メートルの位置にあり、選手とファンの距離は球界でも屈指の近さとなっています。
–新球場は、「昔とは全然違う」「すごく楽しい」と評判のようですね。
池田 プロ野球というのはすごくおもしろいスポーツで、リーグ優勝チームの勝率はだいたい6~7割、つまり優勝チームでも3試合やれば1試合は負けているということです。でもそれは、3試合やったら1試合は負けてもいいということではありません。試合に負ければ、「数千円も払ってわざわざ球場まで足を運んだのになんだ」と思うのも、観客の心理だと思います。
でも、私たちはDeNAベイスターズの試合を見に来た皆さんに、そういう思いをさせたくありません。「また球場に来たい」と思っていただけるような楽しみやおもてなしを、いろいろと考えていかなければいけないと考えています。例えば、スタジアムの周辺でアトラクションを用意したり、イニング間の大型ビジョンもお客様に楽しんでいただくための映像を流したりしました。ほかにも、時にはアーティストのライブで試合直前の球場全体の空気を温めたり、スタジアムの中だけで聴ける特別なラジオ番組を放送したり、試合終了後に、グラウンドに座って映画を見る映画鑑賞会なども開催しました。
そういう中のどれか一つでもいいので、お客様に楽しいと思ってもらいたい。そしてせめて、「試合には負けたけど、これを楽しめたからいいか」と思ってもらえるようにしたいと思っています。今後もいろいろな“野球場の楽しみ方”を提案していきたいと思います。
–現在の観客動員数はいかがですか?
池田 今シーズンは、全試合通して対前年同期比110%の伸びで推移しています。去年は外野席の右半分(DeNAベイスターズファン側の席)、つまりライトスタンドを埋めることさえできませんでしたが、現在は外野席から時計回りに、一塁側内野席、それからバックネット裏の観客席もしっかり埋まるようになってきました。球場の半分、いわゆるホーム側の席は埋まるようになってきました。三塁側内野席は対戦相手のファン数にもよる部分ですが、今後の課題です。
それから、満員の回数も、昨シーズンはシーズンを通して全部で4回でしたが、今シーズンはすでに7回(7月17日現在)で、8月以降に3回は満員が見込めると思うので、地方開催試合を除く横浜スタジアムで行う主催67試合(7月末時点)のうちの10試合は満員にできそうです。そして、いつの日か収容人数約3万人の横浜スタジアム全体をDeNAベイスターズのファンで埋め尽くすことが夢です。