「10年以上で無期転換」の誤解
改正労働契約法が施行されたのは2013年4月。その年の12月には、大学などで科学技術に関する研究やその関連業務を行う人に限定して、無期転換請求権が発生する期間を5年以上から10年以上に延長する特例措置を設けた法律が成立した。
これが「研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律及び大学の教員等の任期に関する法律の一部を改正する法律」。いわゆる「研究開発力強化法」と「任期法」だ。
前者の「研究開発力強化法」が成立した背景には、改正労働契約法施行の2カ月前、ノーベル賞受賞者に対する衆参議院の奉祝行事で講話をした、京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥所長の発言がある。
山中所長は改正労働契約法によって研究者を非常勤で5年間雇用した後、無期で雇用しなければならなくなると、大学としては5年を超えて雇用することが難しくなる、という主旨の発言をした。その結果、優秀な人材が集まらなくなるという。そうした大学側の要望を受けて法律は成立した。
ただし、無期転換請求権の発生が10年以上に延長されるケースは限られる。専門的な知識や能力を必要とする研究開発業務に携わる職員にしか適用されない。つまり、一般の非常勤講師は対象にならないのだ。
後者の「任期法」は、私立大学の経営者団体の要請を受けて改正された。もともとは専任教員が対象だったものを、特例として非常勤講師にまで広げたかたちだ。しかし、この法律でも、対象となる人は、多様な人材の確保が特に求められる教育研究組織に属する人、助教、プロジェクトに参加する人のいずれかに限られている。さらに、本人の明確な同意が必要になる。本来なら5年以上働けば無期転換請求権が得られる権利を剥奪することになり、契約の不利益変更になることから、大学はあらかじめ規則を定め、本人に説明して、同意書をとらなければならないのだ。
前述のメールを送ってきた大学関係者だけでなく、多くの大学関係者がこの2つの法律を理解していない現状が続いてきたのだ。
慶応義塾大、中央大、東海大は「10年ルール」撤回拒否
改正労働契約法施行から、すでに5年以上が経過した。ところが現在になっても、「研究開発力強化法」と「任期法」をよく理解しないまま適用し、「非常勤講師の無期転換請求権は10年以上働いてから」と主張している大学が数多くあることがわかった。