イオンのオーガニックスーパー「ビオセボン」は2018年4月から12月にかけて、一挙に7店舗を出店した。ビオセボンは、現在ヨーロッパで140店舗以上を展開するフランスの有力オーガニックスーパー。イオンは16年6月、提携し合弁でビオセボン・ジャパンを設立。12月、東京・麻布十番に1号店をオープンした。
「麻布十番店」は、当初はなかなか客が付かず苦戦した。そこで、品揃えを修正するなど手を入れ軌道修正を図り、子どもには安全な食品を食べさせたいと願う子育てママの支持も得て、店舗の認知度も次第に高まり、次第に店舗運営も軌道に乗っていった。
そして、ビオセボン・ジャパンは、日本におけるオーガニック市場の成長の可能性を確信したことから、18年4月から子育てママをメインターゲットに設定し、新たな店舗フォートを開発、東京、神奈川で店舗展開をスタートさせた。
4月に出店した「中目黒店」(目黒区)はタワーマンション、5月の「外苑西通り店」(渋谷区)は路面店、11月の「赤坂店」(港区)は雑居ビル、7月の「新百合ヶ丘店」(川崎市麻生区)と10月の「碑文谷店」(目黒区)はイオンリテールのGMS内、11月の「東武池袋店」はデパ地下と立地はさまざま。売場の規模も店舗によって異なっている。
最大規模の「横浜元町店」開業
12月14日にオープンした8店舗目となる最新店舗の「横浜元町店」(横浜市中区)は、おしゃれなショップが軒を連ねる横浜有数の商店街の元町通りに面している一等地にある。イオンが9月に事業撤退した「ローラアシュレイ」が退店した跡で、瀟洒なビルの1階と2階を占め、売場面積は約100坪と18年に出店したなかでは最大規模で、初めての2フロアの店舗だ。
1階は、野菜、果物、肉、魚の生鮮食品を中心に、調味料、飲料、菓子などを展開している。2階は、惣菜、ナチュラルチーズ、パン、ワインを揃え、コスメや日用品、ベビー用品を集めたコーナーも展開、18席のイートインスペースも設けている。
新しい商品も積極的に投入しており、秋からは飼料にこだわりホルモン剤無投与の「秋川牧園」の黒毛和牛、有機米のあきたこまちを使った「直巻おにぎり」も始めた。オーガニックやグルテンフリーのドッグフードも販売している。ブームの兆しを見せているアーモンドミルクなどの乳糖フリーの植物性飲料も強化、ココナツミルクのヨーグルトも揃えた。変わったところではオーガニックやグルテンフリーのドッグフードもある。
普通のスーパーと異なり、オーガニックスーパーという特色のある店舗なため、オープンしてからリピーターを獲得するまで時間がかかるが、18年に出店した店舗も徐々に客が付いてきて売上も順調だという。
19年2月にも新店を予定し、その後も新店に必要な店長、副店長を育成しながら、当面、東京と神奈川で店舗展開を進めていく。
数少ない成長市場で大きな可能性
こうして事業を拡大していこうとしているが、12月には、イオンはビオセボンとより緊密な関係を構築するため、19.9%出資した。ビオセボンに、日本とフランス双方での商品の開発やサプライチェーンの構築などの事業戦略の議論を深めていく「戦略委員会」を新たに設置、イオンは委員を1名派遣する。
ビオセボン・ジャパンも、ビオセボンの進んでいる商品開発力や生鮮のバリューチェーン、在庫管理システム、IT・物流などのノウハウを積極的に活用することで、成長を加速させ、日本におけるオーガニック市場の創出・拡大を牽引していく考えだ。
イオンの岡田元也社長はオーガニックに関心が高く、長男の尚也氏は、ビオセボン・ジャパンの営業部長、イオンにとってオーガニックはある意味で特別な存在だ。以前から農産物や調味料などPB「トップバリュグリーンアイオーガニック」の開発にも力を入れており、大手流通チェーンでは突出したオーガニック先進企業。イオンリテールでは、農産物の売上に占めるオーガニックの割合が年々増加し、17年は1.5%程度となり、20年まで5%まで高めようとしている。
同業他社では、ライフコーポレーションがオーガニック農産物などを扱うスーパー「ビオラル」を16年6月、大阪市西区に出店、18年1月には改装を実施したが、業態としての完成度はまだまだで、今後の展開も未定だ。
国内のオーガニックマーケットの市場規模は年々伸びているものの2000億円程度、米国の5兆円超とは雲泥の差がある。欧米ではオーガニックが特別なものではなく、普通のスーパーでも手軽に手に入り、消費者も当たり前のように購入している。これに対し日本ではオーガニックへの関心がまだまだ一部の層に限られる。
近年では健康志向が高まり、ライフスタイルの一環としてもとらえられ、オーガニックも徐々に広がりを見せるが、普及しないのは、価格の高さと購入場所が少ないことが挙げられており、消費者の関心が高まるなかでネックになっている。そうした状況において、イオンは一般顧客を対象に、オーガニックの先導役として果たす役割は極めて大きく、オーガニックマーケットの拡大の推進力となるのは間違いない。
しかし、販売拠点が増えていっても、生産者やメーカーも増えていかなければ供給が追い付かない。イオンはメーカーとも連携して協同の商品開発も進めていく考えだ。
有機農業では、取組面積は緩やかに増加しているものの、耕地面積の 0.5%にすぎない。だが、有機農業者の平均年齢は農業全体に比べ7歳程度若く、約半数が60歳未満。また、新規就農希望者の3割が有機農業での就農を希望しているというデータもあり、今後増加していくものと思われる。
ただ、市場ルートでは流通経路が確立されておらず、小売と連携して販売ルートを確保することも必要で、イオンなどではすでに取り組みを進めている。生産、販売、消費、それぞれの視点からオーガニックをとらえてみても、大きく潮目が変わる時期が到来している。流通シーンにおいて、現状ではパイが小さいが、数少ない成長市場で大きな可能性を秘めているといえよう。
(文=西川立一/流通ジャーナリスト、マーケティングプランナー)