結果、タクシー会社など、夜に仕事をする人たちをターゲットに販売は好調に推移し始める。さらに、屋外での飲食に対して当時の日本では多くの人が抵抗感を持っていたため、新しいことに対して寛容な若者をターゲットに歩行者天国での販売を行い、まんぷくヌードルは若者にとってファッションとなる。その後、徐々に広がりを見せ、マスマーケットでも受け入れられ、売り上げは急激に拡大している。これらの動きは消費者教育の成功とも捉えられるだろう。
また、お湯が注がれる自動販売機の設置なども精力的に行われており、こうした取り組みは、4Pにおける流通と深くかかわる事象である。
4Pを超えて
このように、ドラマ『まんぷく』は商品を開発・発売する際の4Pの重要性について、実に多くのことを教えてくれた。さらには、こうしたマーケティングにかかわる技術的な側面を超えて、開発責任者の覚悟やリーダーシップの重要性も痛感させられた。ドラマのなかでは、商品の開発および発売において、品質や価格など多くの妥協・譲歩すべきポイントがあったものの、開発責任者であった創業者は強い信念を持ち、乗り越えていった。
こうした成功の背景として、もちろん個人の資質に依存する部分も大きいと思われるが、創業者という極めて大きな権限を有するからこそ実現できたということは否めないだろう。
現在の日本の大企業であるならば、商品開発担当者は単に商品の機能的な部分を担当するだけで、価格や流通や販売促進には完全にノータッチな場合が多い。しかしながら、4Pにおける4つの要素は、強く連携できていなければならない。
そのためには、欧米の大手企業ではすでに主流となっている、商品の開発や発売に大きな権限を有するCMO(最高マーケティング責任者)の設置が、多くの日本企業において重要となってくることだろう。
(文=大﨑孝徳/デ・ラ・サール大学Professorial lecturer)