ビールの味、事前知識提示の有無で評価に大きな差…確証バイアスとテイストテスティング
知識が経験(テイスティング)自体を変える
それではもし、情報がテイスティング(消費)のあとに与えられたのならば、人はどう判断するでしょうか?
ここでは、コロンビア大学のリーら(2006)による興味深い実験を紹介します。
まずはテイスティング用に2種類のビールを60ミリリットルずつ用意しました。Aは普通のバドワイザー、Bはそれにバルサミコ酢を微量(10ミリリットルに対し1滴)加えたものです。そして被験者を3つのグループに分けて、それぞれ異なった状況でテイスティングをしてもらいました。
事前条件では、この2種類のビールの中身を説明したうえで試飲させて、どちらが好きか評価してもらいます。事後条件では、両方のビールをまず試飲させてから、AとBそれぞれの中身を明かして、どちらが好きか評価してもらいます。ブラインド条件では、事前・事後ともに何も伝えずに2種類のビールを試飲してもらったあとで、どちらが好きか評価させます。
中身を知ったあとに回答を変えてしまう後知恵バイアス(バルサミコ酢入りのBのほうが好きだというと味音痴だと思われてしまう)の影響を最小限に抑えるために、どちらが好きかの評価は、(1)自己申告、(2)選んだほうのビールを1杯無料でプレゼントする、(3)レシピ(10ミリリットルに対し1滴の割合)とともにバルサミコ酢を用意して、プレゼントしたバドワイザーに自発的に酢を加えるかを隠れて観察する、の3通りで判断しました。
結果は、バルサミコ酢入りビール(B)を好んだ人の割合は、ブラインド条件が一番高く(59%)、事前条件が一番低くなって(30%)、この差は統計的に有意でした。
事前条件に割り当てられた多くの被験者が、おそるおそるBを試飲していたことからも、この結果は容易に想像できました。事後条件でBを好んだ人の割合(52%)は、この2つの条件の中間になりましたが、事前条件の割合より有意に高く、ブラインド条件とは有意な差がありませんでした。
結果をまとめると、バルサミコ酢入りビールを好んだ人の割合は、
【ブラインド条件】●【事後条件】>【事前条件】
※●部分はニアリーイコールの記号
となったのです。つまり、ビールを飲んだあとでバルサミコ酢のことを知った被験者は、そのことまったく知らない被験者と同じくらい気に入ったのですが、そのことを試飲前に知ってしまうと、選好は大きく下がるのです。