たまり漬け屋・上澤梅太郎商店、なぜ苦境から1年で黒字転換?地に足の着いたイノベーション
1.創業400年のたまり漬け屋が苦境に
栃木県日光にある漬物屋、上澤梅太郎商店。江戸時代に創業し、400年の歴史がある。蔵業として創業し、味噌、醤油屋として栄え、その後、たまり漬けと商品を変えた。バブルの頃には売り上げはピークを迎えた。しかし、その後売り上げは減少し、ピーク時の3分の1にまで落ち込んだ。このままでは、会社の存続も危ぶまれる。業績改善のために、商品の品質向上や集客施策を行ったが、状況は大きくは変わらなかった。
2.業績悪化の理由は漬け物業界と観光業界の変化
そもそも、売り上げが落ち込んだのはなぜだろう。それを理解するために、従来の購入シーンを振り返ってみよう。同店がある日光市今市は、日光東照宮からも近く、観光に向かうバスや車が通るエリアだ。店舗は主要な国道の一つに面しており、観光に来た車が立ち寄って、土産としてたまり漬けを購入してくれた。そして、商品を気に入った方が、カタログ通販、ネット通販で再度購入してくれる、というのが代表的な購入パターンだった。
しかし、状況は大きく変わってしまった。原因は2つある。
1つ目は、日光の観光市場の変化だ。日光といえば、筆者も小学校の修学旅行で訪れたことがある。昭和の頃は、一度は行きたい観光地の定番だった。しかし、平成に入り、観光客は徐々に減少した。結果、上澤の店舗への来店者も減少した。観光客の減少に歯止めをかけたのがインバウンド観光需要だ。日光の社寺は1999年に世界遺産に登録されたことをきっかけに、外国人観光客が増えた。観光客全体としては増加に転じ、日光は賑わいを取り戻した。
しかし、残念ながら上澤の売り上げは回復しなかった。外国人観光客は漬物を買わないからだ。もともと食文化が違うこと、生ものであるため、持ち帰りが難しいことを考えると、外国人に漬物を購入してもらうことのハードルは高い。結局、上澤店舗への来店者は減少の一途をたどっていることとなる。
もう1つの理由は、漬物市場全体の縮小だ。経済産業省の工業統計によれば、漬物市場はここ数十年ずっと縮小しており、平成24年までの10年だけでも約3割縮小している。