たまり漬け屋・上澤梅太郎商店、なぜ苦境から1年で黒字転換?地に足の着いたイノベーション
日本人は和食を食べなくなったし、朝食を食べなくなった。この変化を考えれば、漬物市場の縮小も納得感がある。上澤のたまり漬けの売り上げ減少も、市場全体の縮小の影響を受けているのは間違いない。
日光への日本人観光客の減少による、上澤店舗への来店者の減少、国内の漬物市場そのものの縮小、2つの市場環境変化が大きな波となり、売り上げの減少をもたらしていた。売り上げ減少の原因が市場環境の変化であるなら、目指すべきは単なる集客や販売数の増加ではない。沈みゆく市場でTOPになっても、沈むことに変わりはないからだ。目指すべきは、新しい価値を定義し、新しい市場をつくることだと考えた。
3.売れないのは価値がないから?
上澤梅太郎商店はたまり漬けの開発者であり、「たまり漬け」の登録商標も持つ、たまり漬けの元祖だ。味噌の上澄み液である「たまり」に野菜を漬け込み、深みのある味わいのある漬物をつくった。元祖なだけに、味の評価も高い。根強いファンが多く、東京近郊のデパートの催事出店の際はたくさんのリピーターが足を運び、お中元、お歳暮のカタログ送付の際はたくさんの注文があるという。そんななかでも評価が高いのが、らっきょうのたまり漬けだ。
売り上げ全体の4割以上を占め、雑誌のらっきょう特集でも高い評価を受けている。製造方法にもこだわりがある。大粒の国産らっきょうを選りすぐり、複数の工程を経て樽で漬け込む。販売の前日まで樽から出さず、毎日翌日の販売分だけを樽から出して袋に詰める。食べてみると、シャキシャキした歯ごたえがあるのが特徴だ。聞いてみると、加熱殺菌をしていないため、らっきょうが柔らかくならないのだという。その分、賞味期限は短くなるが、それを補うために前日に袋詰めするのだ。実際に、競合と思われるたくさんのらっきょうの漬物と比較試食会を開いたところ、圧倒的に高い評価が得られた。
しかし、いくつか問題点も浮かび上がった。まずはそのまま食べると塩気が強すぎるということだ。粒が大きいこともあり、一口で食べるとボリュームも大きい。本来は刻んで、ご飯と一緒に食べてほしいとのことだが、一般的な小粒のらっきょうの漬物は一口で食べるようにできているため、なかなか伝わらない。
店頭の試食コーナーでも、漬物単体で試食するようになっているため、ご飯と一緒に食べる時のおいしさは伝わりづらい。結果、「しょっぱすぎる」と評価する人もいる。高い価値のある商品でありながらも、消費者にはまだその価値が十分に伝わっていない可能性がある。いわゆるUX(ユーザーエクスペリエンス:顧客体験)に課題があるのだ。