一方、日立は“製造業ビジネス”を切り離している。2012年以降、日立はハードディスク駆動装置事業、日立工機の売却など、“製造業”を事業ポートフォリオから切り離してきた。その上、中核の上場子会社である化学メーカー、日立化成の売却も固まった。年初来、アジアの化成品市況は相応に堅調だ。日立にとっては、ここがいい売り時なのだろう。
中核子会社を売却することで得られる経営資源を、日立の経営陣はソフトウェア創出力などに関する分野に重点的に再配分している。同社は選択と集中を通して、ソフトウェア創出力を軸に成長を目指す、新しいビジネスモデルの構築に取り組んでいる。
人々の“ライフスタイル”の創出
見方を変えると、日立は、これまでにはなかった人々の“生き方=文化”を生み出したい。企業が需要を生み出すためには、新しい“動線”が必要だ。新しい動線を描くことは、人々の生き方=文化を生み出すことと同義である。
ソニーのウォークマンは、私たちに歩きながら音楽を聴くという“新しい楽しみ方(価値観)”を提案し、受け入れられ、ヒットした。これは、まさに新しい生き方の創出だ。それがCDやMDなどの開発につながった。ソニーはモノをつくりつつ、その根底では文化を生み出していたのである。
アップルは電話(iPhone)、パソコン、カメラ、音楽プレイヤーなど多・高機能のモバイル・デバイスに関するソフトウェアを創出した。1997年、アップルは経営破綻の危機にあった。それを救ったのは、スティーブ・ジョブズの考え(ソフトウェア)だ。アップルは製品の組み立て・生産を台湾の企業である鴻海(ホンハイ)精密工業傘下のフォックスコンに委託するなど、企業の活動にも大変革をもたらした。
日立は、こうした想像・創造力あふれる企業になりたい。それは、家電、重電分野で製品の改良を行ったり、顧客の要望に対応することとは、発想が異なる部分がある。日立が手に入れたいのは、ハード(製品)の機能(動き、役割)を生み出すソフトウェアを生み出す力だ。同社は、従来の延長線上にある発想から脱却し、ゼロから自力で新しい発想を生み出し、企業の経営(ビジネスモデル)や、個人の生き方に新しい価値観を提供することを真剣に目指している。