そのためには、これまでには知られていなかった人々の行動様式などを見つけなければならない。スマートフォンの普及に伴い、私たちの生き方に関する膨大なデータ(ビッグデータ)が日々蓄積されている。日立はデータ分析などを進め、新しい動線を描き、需要を創出することを目指している。現在の日立経営陣の頭の中には、製造業や非製造業、個人事業と法人事業という発想はないだろう。
目指すは産業創出のプラットフォーマー
日立は常識を捨て、あらゆる産業・経済活動のプラットフォーム(基盤)になることを目指している。これは、社会全体に変革を起そうとする取り組みに等しい。
それを体現したビジネスがLumada(ルマーダ)事業だ。これは、生産やビジネスの現場と経営管理に関するデータをフルに活用して顧客の課題を解決し、新しい満足度(価値)を提供しようとするプラットフォームビジネスである。同社は顧客への新しい価値創造のために、ルマーダのコンサルティング力、データ分析力、シミュレーション力の向上をビジネス上の最重要課題に位置付けている。
ABBのパワーグリッド事業、米JRオートメーションの買収が産業プラットフォームであるルマーダと融合することは、日立の戦略に一言では言い表せないほどの深みと広がりをもたらす。送電データを分析することで、顧客企業のオペレーション改善提案を行い、それをオートメーションテクノロジーと融合することで、従来にはない生産プロセスが確立できるだろう。
また、家計の送電データを分析することで、家族が家の中にいる時間を把握することもできるだろう。企業にとって、人々が家の中に引きこもってしまうのはマイナスだ。外出する楽しみの有無が、消費意欲に大きく影響する。それが企業の収益を左右する。
日立は、データの分析、それを活かしたシミュレーションを通して個人と企業の新しい動線を引き、需要を創出したい。それは、日立だけでなく、社会の発展にとっても重要だ。この発想に、製造業と非製造業、個人と法人という発想は当てはまらない。
日立は、デジタル・テクノロジーを駆使した社会イノベーターとしての役割をさらに強化するだろう。それに伴い、同社の事業ポートフォリオも、さらなる変革を遂げることが期待される。一連の改革を支えているのは、経営トップの感性と決断力だ。
足許では、わが国経済の先行き不透明感が高まっている。日立のイノベーションが多くの企業や個人を刺激し、新しい発想の創出に向けた取り組みが増えることを心から期待する。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)