DeNA、急成長の秘訣は“不格好経営”?優秀な人材を育てる非常識経営〜創業者に聞く
–結局、ソニーからの出資は受けられたのですか?
南場 はい。結局はソニーに締め切りを延ばしてもらうなどして、出資の遅れは会社が私個人から借金することで、なんとか切り抜けることができました。私個人が保証する旨のサインを行うことは、周囲全員が反対しましたが、最後はもう「するしかない!」という感じでサインして送り返しました(笑)。
–そのほかにも、ネットオークションのサービス開始を3週間後に控えた最終テスト前日に、なんと開発が完了していたはずのシステムが、実はまったくできていないことが発覚するトラブルにも見舞われたそうですね。
南場 これは、いまだにわが社最大のトラウマですね。実は、私どもがシステム開発をお願いしていた会社は、過去に一度きちんと動くシステムを開発してくれていたので、信頼して開発を委託していました。当時はあまりにも忙しく、「開発が終わってからのテストフェーズで、ある程度つくり直しができるようにしてある。すべての最終確認は、そこでやろう」と決めていましたから、それだけ信頼していたわけです。ただ、一度開発現場を見学しようという話が出たこともあったのですが、開発チームが九州で作業をしていたことや、開発以外に無駄な時間を割きたくないということでしたので、訪問しませんでした。我々のチームの一員として議論や作業に参加していた、その開発会社の担当者も、「開発は進んでいる」という言葉を信じ、自らは確認していなかったようです。
結局、最終テストの前日になって、開発会社の社内のいざこざが原因で実は開発チームは存在しておらず、コードが一行も書かれていないという事実が発覚したわけです。また、自分たちがネットオークションで国内一番乗りになるはずが、ヤフーが数カ月前にサイトをオープンしてしまうという誤算も重なり、焦りが極限に達している中での大失態でした。
–その難局を、どのように乗り切られたのですか?
南場 問題が発覚した翌日、もろもろ起業のアドバイスをしてくれていたベンチャーキャピタル・NTVP(日本テクノロジーベンチャーパートナーズ)の村口さんから「諦めるな。この規模なら天才が3人いれば1カ月でできる」と言われ、さっそく「天才エンジニアを集めよう」となりました。そして自社で出資している企業に次々と声をかけてくれたのです。ただ、集まってくれた天才エンジニアの方々は、「これほど素晴らしい仕様書は見たことがない。しかし、残念ながら、年内に僕ができるものはありません」と続けました。
そうした中で「なんとかなるかも」と言ってくれたのが、システムのデータベース連携を事業とするインフォテリア・北原社長でした。北原社長は「ウェブからの出品機能は実装できません。そういう条件でよければ間に合わせましょう」と言っていただきました。私たちには選択肢はありません。とにかく事態を受け入れて、前に進むしかありませんでした。
●苦戦しながらも黒字化を達成
–そして1999年11月に生まれたのが、貴社として最初のサービス、ネットオークション・ビッダーズ(現DeNAショッピング)ですね。
南場 ビッダーズはマスメディアでも頻繁に取り上げられ、また大手ポータルサイトとの提携も功を奏して成長していきました。ただ、すでに99年9月に始まっていたYahoo!オークションとの差は縮まらないどころか、ますます開いていきました。このようなネットワーク効果があるサービスは、利用者を増やし、先にサービスを軌道に乗せたところが圧倒的に有利です。その上、住所確認をしなければ出品できないなどセキュリティーを厳しくしていたこともあって、すぐには成長軌道に乗れませんでした。一方で、Yahoo!オークションはどんどん成長していきました。
–しかし貴社は、03年3月期下半期には黒字化を達成していますが、黒字化の要因はなんだったのでしょうか?
南場 その後もオークションでとことん頑張り、できることはなんでもやったのですが、ダメでした。敗北したわけです。株主には、「ヤフーを超え、業界ナンバーワンになるまで投資を続けさせてくれ」、つまり「赤字を認めてくれ」とお願いしていたわけで、それを果たせないことがわかったからには、当然のことながら、一刻も早く黒字化をしなければなりませんでした。
実は、敗北したとはいえ、総力戦でものすごい悪あがきをして頑張っていたことで、結果的にビッダーズは120万人ものユーザーを抱え、日本有数のアクセス数を誇るサイトへと成長していたのです。このユーザーの動向調査から、「オークションそのものに参加する」というよりは、「欲しいものを探しに来ている」ということがわかりました。それならオークション方式にこだわる必要はなく、固定価格で売ってもいいのではと考え、ショッピング事業を強化したことが功を奏しました。
–初めて黒字化を達成した時は、どのようなお気持ちでしたか?