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入試倍率10倍の順天堂大学医学部、なぜ中堅の高校を系属校化で内部進学枠?

文=Business Journal編集部、協力=石渡嶺司/大学ジャーナリスト
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順天堂大学の公式サイトより
順天堂大学の公式サイトより

 順天堂大学と宝仙学園中学・高等学校共学部(東京都中野区)が系属校協定を締結し、宝仙学園から毎年、数名程度が順天堂大学医学部に内部進学すると発表され、注目されている。近年、難易度・入試倍率が上昇し私大医学部御三家と並ぶポジションに置かれる順天堂大学は、なぜ宝仙学園と系属校協定を結ぶに至ったのか。また、ここへきて大学による高校の系属校化が増加している背景には何があるのか。専門家の見解を交え追ってみたい。

 6年間トータルの学費が平均3000万円といわれる私立大学の医学部。2008年度に順天堂大学医学部は学費を一気に約900万円値下げし約2080万円に設定し、初年度の学費290万円は国内の私立医科大学のなかで最安値となった。2年目以降の年間学費は単純計算で360万円ほどと「サラリーマンの一般家庭でもギリギリ払える金額」(大学関係者)になったことで、同大学医学部の受験者数は増加。近年の入試倍率は約10倍(一般A方式、以下同)、偏差値は70(河合塾の公開データより)となっており、私立大学医学部御三家の慶應義塾大学に次ぎ、東京慈恵会医科大学、日本医科大学と並ぶレベルのトップレベル校となっている。

 学校法人宝仙学園は宝仙学園幼稚園からこども教育宝仙大学までを擁し、系列高校には共学の宝仙学園高等学校共学部理数インターと宝仙学園高等学校女子部がある。今回、順天堂大学の系属校となるのは宝仙学園高等学校共学部であり、中高一貫校である宝仙学園中学・高等学校共学部の中学校の偏差値は42~46(四谷大塚の公開データより)となっている。

 医科大学が系属校や付属校を持ち内部進学者を受け入れ始める動きとしては、23年、北里大学医学部を擁する学校法人北里研究所と順天学園(東京)が学校法人合併に向けた基本合意書を締結したケースがある。これにより順天中学・高等学校は26年度から北里大学の付属校となる。

「学生集め」には不自由していない順天堂大学医学部が、内部進学枠を設けてまで中堅校の宝仙学園高校と系属校協定を締結する理由は何なのか。大学ジャーナリストの石渡嶺司氏はいう。

「医科大学トップクラスの順天堂大学医学部であっても、早い時期、できれば年内に入学者を一定程度、確定させたいという背景があると考えられます。一般入試の受験者は当然ながら他大学の医学部も受験するので、国立大学や慶應義塾大学などに合格して順天堂大学への入学を辞退する人も出るため、大学側は入学者が確定するまで冷や冷やすることになります。高校との系属校協定があれば、より早い段階で入学者を確定させることができ、また医学部以外の学部の入学者も一定数、確保することができます。

 大学側としては、どの高校を提携先として選ぶのかは重要ですが、たとえば偏差値上位クラスの高校だと国立大学や早慶などの難関大学を目指す学生が多く、難関大学以外への内部進学枠を設けても出願してくれない可能性も考えられます。そうした事情を大学側も高校側もよく理解した上で提携相手を検討することになりますが、中高一貫校である宝仙学園の成績上位者は高い学力を有していると考えられ、大学側としては、そのような学生を獲得したいという狙いもあるでしょう」

高大連携が広がる背景

 近年、大学と高校が「連携協定」や「系属校協定」「系列校協定」を締結する高大連携の例は枚挙に暇がない。連携協定は、締結しても必ずしも高校側が提携先の大学の指定校推薦枠などを持つわけではない。一方、系属校協定と系列校協定はより関係が強固であり、一般的に高校から大学への内部進学枠などが設けられる。

 こうした高大連携には、学生集めで優位に立つ名門大学も積極的な姿勢をみせている。21年、明治大学と日本学園は系列校化に関する基本合意書を締結し、26年4月から日本学園中学校・高等学校は明治大学付属世田谷中学校・高等学校となり、29年度から明治大学への付属高等学校推薦入学試験による入学が始まる。昨年には上智大学が横浜雙葉(横浜市)、清泉女学院(神奈川)、福岡雙葉学園(福岡市)など40以上の学校と連携協定を結んだことは大学業界で注目された。

 医科大学でも、以前から付属校を持つ大学は毎年、一定数の内部進学者を迎え入れているが、付属校・系属校というかたち以外としては、北里大学や獨協医科大学のように特定の高校に指定校推薦枠を設けているケースもある。ちなみに医学部を設置していない早稲田大学の系属・付属校は、日本医科大学に内部進学枠を持っていることは知られている。

 高大連携が広がる背景には何があるのか。前出・石渡氏はいう。

「少子化の影響で大学に入りやすくなっていることから、専門学校や短期大学の入学者が減る一方で、大学進学率は上昇しており、短期的には大学経営はそこまで悪くはならないものの、長期的にみれば経営環境が厳しくなっていくのは明らかです。大学間での学生獲得競争の激化が予想されるなかで、各大学が学校推薦型選抜や総合型選抜など、一般入試以外のかたちで、できるだけ年内入試によって入学者を確定できるよう、高大連携に取り組んでいるのです。

 一方、中高一貫校を含む高校側としては、上位クラスの大学に推薦枠や内部進学枠を持っているというのは、入学者獲得の面で強いアピールポイントになります。よって、大学と高校双方にとってメリットのある高大連携は今後の加速していくと予想されます」

 そうした高大連携だが、大学の間では温度差もあるという。

「本来であればそうした取り組みに積極になるべき経営の厳しい大学ほど、動きが鈍いです。経営が悪化した大学ほど危機意識が薄いといってしまえば、それまでですが、高校側としても下位クラスの大学と提携しても学生集めの面でメリットにはなりにくく、知名度や就職実績などの面で劣る大学は提携先を見つけにくいという面もあるでしょう。結果、中堅クラス以上の大学と高校との間で提携の話が進みやすくなります」(石渡氏)

 すでに定員割れなどで大学が閉学する事例も出ているが、長期的にみると大学経営を取り巻く環境は深刻度を増す。22年度の全国の大学入学定員は約63万人であるのに対し、文部科学省の試算によれば2040~50年度の大学入学者数は約50万人となっており、総定員数の約8割の水準にまで落ち込む。大学の淘汰がますます加速するなか、入学者確保に向けた大学の取り組みは過熱する一方だ。

(文=Business Journal編集部、協力=石渡嶺司/大学ジャーナリスト)

石渡嶺司/大学ジャーナリスト

石渡嶺司/大学ジャーナリスト

編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計31冊・65万部。

Twitter:@ishiwatarireiji

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