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三島会社のなかでJR九州だけが黒字の理由…JR北海道・四国が生き残る現実的な方策を考察

2025.06.24 2025.06.23 15:53 企業
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JR九州の鉄道車両(「Wikipedia」より/Rsa)

●この記事のポイント
・三島会社であるJR北海道、JR四国、JR九州の業績の明暗が鮮明に
・JR北海道、JR四国の1営業キロ当たりの営業収益はJR九州の半数程度
・JR北海道、JR四国が鉄道事業で営業利益を計上するには路線の廃止を進めつつ、小幅な値上げを行うしか方策はない

 国鉄民営化に伴い独立したJR北海道、JR四国、JR九州は三島会社と呼ばれ、設立当初から経営安定基金の運用益で赤字を補填することが想定されるなど、苦しい経営が予想されていたが、現在、業績の明暗が鮮明になりつつある。2025年3月期決算を見てみると、JR九州は営業利益が589億円の黒字と好調な一方、JR四国は同130億円の赤字で、JR北海道は同482億円の赤字。JR四国とJR北海道は経営安定基金の運用益と鉄道・運輸機構が発行する特別債券利息による補填、さらにJR北海道は国からの補助金により純利益ベースでかろうじて黒字を維持している状態だ。3社ともに限られた営業エリアという点は同じ条件だが、何が業績の差を生んでいるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

●目次

各社の鉄道事業の営業収支を分析

 三島会社に共通しているのは、人口減少で鉄道事業の先細りが予想されるなか、非鉄道事業の拡大に注力している点だ。たとえばJR九州は運輸サービス業の営業収益(=売上高)が1643億円なのに対し、不動産・ホテル業は同1383億円に上る。なぜJR九州だけが営業利益の黒字を維持することができているのか。鉄道ジャーナリストの梅原淳氏はいう。

「各鉄道会社の連結決算ではなく、個別財務諸表に載っている鉄道事業の営業収支で話を進めたいと思います。JR九州が鉄道事業で134億円の営業利益を得ることができ、JR北海道が567億円、JR四国が148億円の営業損失をそれぞれ計上した理由として挙げられるのは、1営業キロ当たりの営業収益の違いです。営業キロ2342.6kmのJR九州は営業収益が1671億円で1営業キロ当たりの営業収益が7131万円であったのに対し、2254.9kmのJR北海道は908億円に対して4027万円、853.7kmのJR四国は304億円に対して3561万円でした。JR九州の1営業キロ当たりの営業収益に対してJR北海道は約57パーセント、JR四国は約50パーセントしかありません。

 一方で1営業キロ当たりの営業費は3社ともほぼ同じです。JR九州は営業費が1537億円で1営業キロ当たりの営業費は6559万円であったのに対し、JR北海道は1475億円で6541万円、JR四国は452億円で5295万円でした。

 なぜJR北海道、JR四国の1営業キロ当たりの営業収益がJR九州の半数程度なのかは、単純に利用者が少ないからです。旅客輸送密度または平均通過人員といって1日の1営業キロ当たりの旅客の輸送量を示す数値はJR九州が8808人であったのに対し、JR北海道は3759人、JR四国は3589人と半数以下でした(旅客輸送密度のデータはいずれも2022年度)」

JR北海道とJR四国の鉄道事業を黒字に転換させることは困難

 なかでもJR北海道の経営不振は深刻だ。国から24年度からの3年間で1092億円の支援を受けることが決まっており、すでに支援を受けているが、営業利益の赤字額は400億円超に上る。JR北海道自身が「単独では維持困難」とする赤字8線区など、経営の健全化に向けて足かせとなり得る路線をどのように見直していくのかが大きな課題だ。北海道新幹線の札幌延伸までは多額の建設費も経営を圧迫する。では、JR四国とJR北海道が営業利益を黒字に転換させるなど、経営を立て直す施策はあるのか。

「JR北海道、JR四国の鉄道事業を黒字に転換させることは非常に困難です。JR九州は上場前までは鉄道事業の営業収支が悪く、営業利益を出したことはありませんでしたが、徹底的な経費削減によって成し遂げました。とはいっても、上場前も毎年あと一歩で営業利益が出るという状況でしたから、JR北海道やJR四国に同じことを求めるのは非現実的です。営業費の削減に効果があるのは、利用者の少ない路線の廃止ですが、そう簡単にはいかないでしょう。

 JR北海道、JR四国の営業エリアとも、一部の都市を除けば沿線の人口が今後大きく増える見込みはないといえます。そうなりますと、少ない利用者数で営業収益を増やすためには運賃・料金の値上げしか残されていません。しかし、24年度の旅客1人当たりの営業収益は利用者数が3億3182万人であったJR九州が503円であったのに対し、1億2591万人のJR北海道は721円、4004万人のJR四国は760円とすでにJR九州よりも高くなっています。これ以上の値上げは相当な割高感と旅客には受け止められ、利用が大きく減る恐れがあります。両社が鉄道事業で営業利益を計上するには、利用者の少ない路線の廃止を進めつつ、小幅な値上げを行うしか方策はないと考えます」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=梅原淳/鉄道ジャーナリスト)

梅原淳/鉄道ジャーナリスト

梅原淳/鉄道ジャーナリスト

1965(昭和40)年生まれ。大学卒業後、三井銀行(現在の三井住友銀行)に入行し、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に鉄道ジャーナリストとして活動を開始する。『新幹線を運行する技術』(SBクリエイティブ)、『JRは生き残れるのか』(洋泉社)、『電車たちの「第二の人生」』(交通新聞社)をはじめ著書多数。また、雑誌やWEB媒体への寄稿のほか、講義・講演やテレビ・ラジオ・新聞等での解説、コメントも行っており、NHKラジオ第1の「子ども科学電話相談」では鉄道部門の回答者も務める。
http://www.umehara-train.com/

X:@umeharatrain