「焼肉きんぐ」運営会社、独自戦略で海外展開を加速…焼肉食べ放題店を海外に進出させるのか?

●この記事のポイント
・「焼肉きんぐ」を運営する物語コーポレーションが海外進出を加速。フィリピンに同国1号店を開業
・各市場の成熟度や外食文化の違いに応じて、現地に適した新たなブランドを開発していくという柔軟な戦略
・2030年までに全体の10%を海外事業で構成することを目標
人気の焼肉チェーン「焼肉きんぐ」を運営する物語コーポレーションが海外進出を加速させている。すでに中国でハンバーグ専門店「肉肉大米」をはじめ30店舗以上展開しており、4月にはフィリピン・マニラで「肉肉大米」の同国1号店を開業。今後は他の業態も含めて海外で店舗網を拡大させていく計画だという。今後の海外事業拡大に向けてどのような戦略を描いているのか、そして、焼肉食べ放題業態である「焼肉きんぐ」を海外で展開する予定はあるのか。物語コーポレーションに取材した。
●目次
中国・香港・インドネシア・アメリカ・フィリピンに進出
もっとも勢いに乗る焼肉チェーンといってよい「焼肉きんぐ」は、国内で350店舗以上を展開。売上高ベースでは約500店舗を展開する牛角を抑え1位。焼肉に加えてバラエティ豊富なサイドメニューをそろえた食べ放題コースが人気を集め、「きんぐコース」は100分食べ放題、小学生は半額、幼児は無料で税込み3608円(一部店舗は価格が異なる)。「焼肉きんぐ 五大名物」の「厚切り上ロース〜ガリバタ醤油〜」「壺漬けドラゴンハラミ」「きんぐカルビ」「炙りすき焼カルビ」「ねぎポンで食べる大判サーロイン」などのほか、「ひとくち冷麺」「石焼ビビンバ」「熱々!石焼ガリバタライス」「とろ~りチーズの石焼キーマカレー」といったご飯・麺類、各種スイーツや子ども向けメニューなどが充実している。
運営会社の物語コーポレーションは「焼肉きんぐ」のほか、「丸源ラーメン」「寿司・しゃぶしゃぶ ゆず庵」なども運営。業績は好調で、24年6月期の売上高は前期比16.1%増の1072億円、営業利益は13.3%増の82億円、当期純利益は20.1%増の56億円と増収増益となっている。
そんな物語コーポレーションが海外進出を加速させている。同社は中国では「肉肉大米」をふくめて30店舗以上を展開。香港、インドネシアでも出店を重ねており、今年3月には米国で鉄板焼きレストラン「SHOGUN」を運営する企業グループを買収すると発表し、米国に進出。そして今回、フィリピンに進出した。
現在の海外事業の状況について、同社は次のように説明する。
「現在は、中国・香港・インドネシア・アメリカ・フィリピンに進出しております。また、台湾においても現地子会社を設立し、出店にむけて準備を進めている段階です。4月末の店舗数につきましては、以下のとおりです。
中国:肉肉大米(32店舗)、北海道 蟹の岡田屋(4店舗)、天天 天麩羅専門店(1店舗)
香港:肉肉大米(1店舗)
インドネシア:Yakitate KALBI(5店舗)
フィリピン:NIKU NIKU OH!! KOME(1店舗)※25年4月に進出
アメリカ:SHOGUN(8店舗)※25年4月にM&Aを実施」
ちなみに25年6月期の海外事業の売上高(計画)は、中国が52億円(前期比4.3%増)、インドネシアが5億円(同0.4%増)、香港が2億円(同0.1%増)となっている。
その地域のニーズに根ざした運営体制を尊重
海外展開においては、独自の取り組みを推進しているという。
「当社では、海外展開にあたって一律のモデルを適用するのではなく、各市場の成熟度や外食文化の違いに応じて、当社の強みである業態開発力を活かし、現地に適した新たなブランドを開発していくという柔軟な戦略を採用しています。一方、すでに強いオペレーション力やブランド力を持つ現地企業と提携・M&Aを行う場合には、現地企業の運営体制を尊重し、その経営陣に一定の裁量を持たせる形をとっています。いずれのケースでも、日本的な品質管理や理念浸透の仕組みは共通して展開しつつ、現地のお客様に愛されるブランド展開を志向している点が、当社ならではの特徴と考えています」
今後の海外事業拡大に向けた計画・戦略について聞いた。
「海外市場において『日本食』は一定の認知はあるものの、現地マーケット全体から見ればニッチなポジションにあると認識しています。そのため、単に国内業態を海外に持ち込むのではなく、現地ニーズに即した業態開発や、既存ブランドとのM&Aを軸とした展開が基本方針となります。エリアとしては、現在『中華圏』『東南アジアを中心としたアジア全域』『北米』の3エリアに戦略を区分し、それぞれの市場特性に応じたポジショニングと出店方法を検討中です。たとえば北米では既存ブランドの買収を通じた展開を進めており、アジア圏では当社主導のブランド開発を行っています。今後の出店目標や具体施策については、各エリアでの足場を固めながら段階的に拡大していく考えです」
将来的に全売上のうち海外事業の売上をどれくらいの比率まで高める予定なのか。
「現在は国内が売上高の大部分を占めておりますが、2030年までに全体の10%を海外事業で構成することを目標としています。中長期的には、海外における収益構造の多角化や、ブランド認知度の拡大も見据えており、単なる出店数の増加にとどまらず、現地に根差した持続可能な収益モデルの確立を重視しています」
気になるのは、焼肉食べ放題業態である「焼肉きんぐ」を海外で展開する予定はあるのかという点だ。
「『焼肉きんぐ』については、現時点では海外展開の具体的な計画はございません。ただし、焼肉業態そのものへの関心は高く、今後市場環境が整ったタイミングで、現地に適したかたちでの展開可能性は引き続き検討してまいります」
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)