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餃子の王将、豪州上陸の勝算…「時給3千円」市場に日本の大衆中華は通じるか

2026.06.19 06:00 2026.06.18 22:56 企業
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=杉田誠/外食産業コンサルタント
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餃子の王将の店舗(「Wikipedia」より)

●この記事のポイント
王将フードサービスが2026年8月にシドニーへ現地法人を設立し、ファストカジュアル型餃子ダイナーを展開する。最低時給が2900〜3000円に達するオーストラリアで、日本の客単価1300円モデルをいかに再設計するか。価格戦略・労務コスト・職人技の標準化という3つの課題を検証する。

 京都市に本社を置く王将フードサービスは6月11日、オーストラリア・シドニーに100%出資の現地法人「Ohsho Food Service Australia Pty Ltd」を設立すると発表した。設立予定は2026年8月、資本金は約1億円。代表には現社長の渡邊直人氏が就く見通しで、「ギョーザを主役に、チャーハンや麺類、定食などを熱々・スピーディー・手頃な価格で提供するファストカジュアル型ギョーザダイナー」を展開するという。

 同社は2026年3月末時点でフランチャイズを含め728店舗を展開するが、海外店舗は台湾の2店のみ。今回のオーストラリア進出は、日本の「安くて旨い」を体現してきた中堅外食企業が、本格的な英語圏市場、しかも世界有数の高物価・高人件費国家でどこまで戦えるのかを試す、大きな挑戦となる。

●目次

ラーメン1杯3000円の豪州で「手頃な価格」を実現できるか

 オーストラリアの外食物価は、日本人の感覚からすると驚くほど高い。シドニーやメルボルンといった大都市では、カフェのランチでも2000〜3000円程度、ディナーになると4000〜6000円程度が一般的とされる。シドニーには日本式のラーメン店が数十軒あるとされ、一杯あたりの価格は20豪ドル台、日本円にして2500〜3000円程度に達することも珍しくない。

 一方、日本国内の王将は、原材料価格や人件費の上昇を受けて近年複数回の値上げを行ってきたものの、客単価は1300円前後にとどまる。この価格帯をそのままオーストラリアに持ち込めば、現地の物価水準からすれば「破格の安さ」に映る可能性が高い。

 ここで王将が向き合うべきは、価格戦略の選択だ。現地相場よりやや低い価格帯(2000〜2500円程度)を設定して「日本式の手頃さ」を訴求するのか、あるいは現地の物価水準に合わせつつ、調理の質や体験価値に相応の「日本食プレミアム」を乗せるのか。長年デフレ環境下で「値上げをいかに抑えるか」に注力してきた日本企業にとって、海外のインフレを前提に適正な対価を得る発想への転換は、決して小さなハードルではない。

 外食産業コンサルタントの杉田誠氏は「日本企業が海外で陥りやすい失敗は、日本国内の感覚に基づく安さをそのまま持ち込み、結果として現地の人件費や物件費を吸収できず利益が出ない構造に陥ることだ。オーストラリアでは、値付けの起点を『日本でいくらか』ではなく『現地で利益が残るにはいくら必要か』に切り替える必要がある」と指摘する。

時給3000円時代の衝撃…立ちはだかる「人件費」の壁

 オーストラリアの法定最低賃金は、2025年7月時点でフルタイム・パートタイム労働者が時給24.95豪ドル、有給休暇のないカジュアル雇用ではこれに上乗せがある時給31.19豪ドルとなっている。さらに、オーストラリア公正労働委員会(Fair Work Commission)は2026年6月、2026年7月から法定最低賃金を時給26.44豪ドルへ引き上げると発表した。1豪ドル=110〜113円程度(2026年6月時点のレート)で計算すると、フルタイム・パートタイムでも時給はおよそ2900〜3000円、カジュアル雇用では時給33豪ドル超、日本円で3600円を超える水準に達する見通しだ。

 比較対象として、日本の最低賃金は2025年度の全国加重平均で1121円。両国の差は2.5倍から3倍に及ぶ。

 加えてオーストラリアには、日本にはない「ペナルティ・レート(penalty rates)」という制度がある。多くの業種別労働協約(award)では、土曜・日曜・祝日や深夜の勤務に対し、平日の通常時給に25〜100%程度の上乗せを支払うことが義務付けられている。外食産業にとって土日・夜間は最大の書き入れ時であり、この上乗せをそのまま受け入れれば、売上に対する原価と人件費の比率(FLコスト)が一気に膨らみかねない。

 実際、ジェトロが日系企業を対象に実施した調査では、オーストラリアにおける投資環境上のリスクとして「人件費の高騰」を挙げた企業が9割を超えており、人材の確保や離職率の高さと並んで、現地に進出する日系外食企業にとって最大の経営課題となっている。

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※豪ドルの日本円換算は、1豪ドル=110〜113円(2026年6月時点の相場)に基づく目安

王将の生命線「職人の鍋振り」はマニュアル化されるのか

 王将の最大の強みは、セントラルキッチンに依存しすぎず、各店舗の調理スタッフが中華鍋を振って一品ずつ仕上げる「出来立て」の品質にある。これは熟練したスタッフの技術と、相応の人員配置によって支えられてきたモデルだ。

 しかし、時給が世界最高水準のオーストラリアで、熟練スタッフを長時間雇用するモデルをそのまま移植するのは経営上のリスクが大きい。海外で店舗網を拡大してきた日本のラーメンチェーンの多くも、現地化に際してメニューや調理工程を見直してきた。例えば一風堂を展開する力の源ホールディングスは、2008年のニューヨーク進出を皮切りに海外店舗数を増やし、現地の食習慣に合わせてヴィーガンラーメンを開発するなど、現地ごとにメニュー構成を柔軟に変えながら事業を拡大してきた経緯がある。

 王将がオーストラリアで持続的に店舗網を広げるには、看板である「鍋振り調理」の体験価値をどこまで残すかという選択を迫られるだろう。下処理や火入れの一部を機器化・標準化し、職人はフィニッシュ(最終仕上げ)に専念するといった「ハイブリッド型」の運用は、現実的な選択肢として浮かび上がってくる。

「日本式の調理パフォーマンスは、海外では一種の『エンターテインメント』としての価値も持つ。すべてを効率化するのではなく、客席から見える部分にこそ職人技を残し、見えない部分の作業を標準化するという『見せ場の選別』が、コストと体験価値を両立させる鍵になるだろう」(杉田氏)

2014年「中国撤退」の教訓…今回は“日式”を貫く勝算

 王将にとって、海外展開は今回が初めてではない。2005年、本場・中国の大連市に進出し、最大6店舗を運営した経験を持つ。しかし、現地の中華料理との価格・味の両面での競争に苦戦し、経営が軌道に乗らないまま、2014年10月に現地子会社の解散を発表、中国市場から撤退している。

 今回のオーストラリア進出は、構図が大きく異なる。中国では「本場の中華」という土俵で現地企業と直接競合したのに対し、オーストラリアで売り込むのは、近年欧米圏で“Gyoza”や“Fried Rice”として独自のジャンルとして認知されつつある「日式中華(Japanese Chinese)」だ。多様な移民を抱え、日本食への信頼度も高いオーストラリアは、王将にとって「本場との比較」を避けながら独自のブランドポジションを築きやすい市場といえる。

 王将のオーストラリア進出は、一企業の海外挑戦という枠を超えた意味を持つ。長年「安くて旨い」を武器にしてきた日本の外食産業が、超高物価・高人件費の市場で品質を保ちながら適正な利益を確保できるかどうかを試す実験でもある。

 価格戦略、労務管理、そして「職人技」と「効率化」のバランスをどう設計するか。同店が今後、価格帯やオペレーションについてどのような答えを示すのか。その挑戦の行方は、今後海外進出を検討する多くの日本の中堅外食チェーンにとって、貴重な指針となるはずだ。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=杉田誠/外食産業コンサルタント)

公開:2026.06.19 06:00