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鳥貴族がシンガポールに爆誕、現地で激安「2本490円」の勝算…壁が串打ちと酒税

2026.06.21 06:00 2026.06.20 17:51 企業
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=杉田誠/外食産業コンサルタント
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鳥貴族の店舗(「Wikipedia」より)

●この記事のポイント
鳥貴族が2026年6月、シンガポール1号店を開業。全品3.9SGD(約490円)均一という価格は、マクドナルドのセットが1100円超える同国では破格の安さだ。FairPrice Group傘下企業とのFC契約という資本戦略、串打ちや酒税対応という現地適応の課題、2030年海外比率25〜30%という成長目標を読み解く。

 6月15日、大阪発の焼鳥チェーン「鳥貴族」のシンガポール1号店が開業した。運営するエターナルホスピタリティグループが発表した現地価格は、アルコール類を除く全品が1皿3.9シンガポールドル(税抜/約490円)。日本メディアはこぞって「焼き鳥2本490円」と報じ、SNSでは「円安日本の縮図だ」「それでも安い」と賛否入り乱れた。

 だが、この議論はやや本質を外している。シンガポールでは、マクドナルドのセットメニューが10シンガポールドル(約1100円)を超え、中級レストランでの食事は1人20〜40ドル(約2400〜4800円)が相場だ。焼き鳥業態に限っても、現地の日系店舗では1本500〜700円程度の価格設定が珍しくない。その文脈で「2本490円均一」は、破格の低価格として十分に機能しうる。

 問題は価格ではない。「なぜ今、シンガポールなのか」「どう持続的に儲けるのか」「この先どこへ向かうのか」——この3点にこそ、同社の経営戦略の核心がある。

●目次

「縮む国内市場」と「アジアの広告塔」という二重の論理

 エターナルホスピタリティグループが2024年9月に発表した中期経営計画は、読み解くほど野心的だ。現在ほぼゼロに等しい海外売上高比率を2027年7月期までに1割へ引き上げ、さらにその先の2030年には全世界で2000店舗、海外比率を25〜30%にまで高めるとする目標が示されている。国内では2030年に鳥貴族単体で1000店舗(直営・チェーン合計)を目指す計画と並走する形だが、人口減少と若年層のアルコール離れという構造的な逆風を考えれば、成長の「もう一本の柱」が海外であることは明白だ。

 同社はすでに米国(カリフォルニア州)、韓国、台湾、ベトナム、フィリピンへの進出を果たしており、シンガポールは東南アジアで2カ国目、グループとして7カ国・地域目となる。

 では、なぜシンガポールが優先されたのか。大倉忠司社長は現地の開業式典で「シンガポールで成功することは、アジア全体への大きな広告塔となる」と明言した。シンガポールは東南アジアにおける情報発信の震源地であり、富裕層・外国人駐在員・観光客が混在する「アジアの見本市」的な立ち位置にある。ここで「高品質・低価格」のブランドイメージを確立できれば、マレーシア、インドネシア、タイなど周辺国への横展開において、マーケティングコストを大幅に抑制できる。

 外食産業コンサルタントの杉田誠氏は次のように指摘する。

「外食の海外進出において、最初に出店する市場の選び方は極めて重要です。プレミアムな立地で成功した実績が、その後の新興国展開における交渉力と信頼性に直結します。シンガポールは物価水準が高いぶん、同じ価格で入れる市場の選択肢が広がる。逆説的ですが、高コスト市場での成功経験は、より低コスト市場での運営自由度を生む戦略的な布石になりえます」

「直営を避けた」賢明な資本設計…FairPrice傘下企業とのFC契約

 鳥貴族のシンガポール進出で最も注目すべきは、事業スキームの設計だ。同社は今年3月、現地法人「Gohan Concepts Pte. Ltd.」とフランチャイズ(FC)契約を締結。このGohan Conceptsは、シンガポール最大手スーパーマーケット「FairPrice Group」の食品サービス部門(FairPrice Group Food Services Pte Ltd)が51%を出資する合弁会社だ。

 FairPriceはシンガポール全国労働組合会議(NTUC)の傘下企業であり、同国で200店舗以上のスーパーマーケットを展開する”生活インフラ”そのものといえる存在だ。その物流基盤・調達ネットワーク・食品業界での信用力を持つパートナーと組むことで、エターナルHGは複数のリスクを同時にヘッジしている。

 第一に、初期投資の抑制だ。シンガポールは先進国レベルの賃料・人件費を誇る。日本式の直営方式で参入すれば、損益分岐点が極めて高くなる。FC方式により、店舗への資本的支出(CAPEX)の多くをパートナー側に担わせながら、自社はロイヤリティ収入(売上高に一定料率を乗じた額)を得る構造とした。

 第二に、立地と調達の優位性だ。1号店は同国南部・ハーバーフロント近辺に構え、グループ最大の席数を誇るフラッグシップ型として機能する。FairPriceのネットワークを活用した食材調達は、シンガポールが食品の大半を輸入に依存するという構造的課題への対策にもなる。

「現地の強力なパートナーとのFC・合弁モデルは、異文化市場への参入において最もリスクを抑えたアプローチです。特に政府系・準公共系の企業と組むことで、規制対応や物件交渉での優位性が生まれる。日本の外食チェーンがアジアで失敗するパターンの多くは、直営による参入でのコスト過多です。その意味で今回の設計は評価できます」(杉田氏)

「均一価格」と「串打ち」…現地適応の壁

 事業スキームが整ったとして、オペレーションには依然として難題がある。

 まず価格の均一維持だ。鳥貴族の根本的な価値は「全品均一価格」という分かりやすさにある。ただしシンガポールでは酒税が非常に高く、日本のように「ドリンクも均一」というモデルをそのまま適用することは難しい。実際、今回の均一価格(3.9SGD)はアルコール類を除いた設定であり、この点は国内モデルとの明確な差異だ。グループ最大席数の店舗設計は、薄利多売を前提とした「客数による損益分岐点クリア」を狙う構造とも読める。

 次に鶏肉の調達問題だ。国内では「国産鶏肉100%」が品質訴求の核だが、食品の9割超を輸入に頼るシンガポールでは維持が難しい。マレーシアやブラジル産チキンを活用したサプライチェーンの再設計が不可欠となる。

 さらに「手打ち」の問題がある。鳥貴族の現場では焼き鳥を1本ずつ串打ちするオペレーションが品質の源泉の一つだが、日本の数倍に上る人件費が見込まれるシンガポールでこれを維持するか、セントラルキッチン方式に切り替えるかは、ブランドの本質にも関わる選択だ。大倉社長は「今後1年で4〜5店舗を開業する予定」とするが、品質を維持しながらその速度でスケールできるかどうかは、今後の開示に注目したい。

「YAKITORI」を世界共通言語にする

 シンガポールが軌道に乗れば、次のシナリオは自ずと見えてくる。

 まずイスラム圏の巨大市場だ。インドネシア(人口約2億8000万人)、マレーシア(約3300万人)はムスリムが多数派を占める国々であり、豚肉の代わりにチキンが主役の外食市場を形成している。ハラール認証取得の課題はあるものの、「焼き鳥=チキン料理」というカテゴリーとの親和性は高い。シンガポールでFairPriceグループとのネットワークを確立することは、マレーシア展開への橋頭堡ともなりうる。

 また米国での本格展開も視野に入る。同社はすでにカリフォルニア州に「TORIKIZOKU」の1号店を開業しており、”YAKITORI”はロサンゼルスやサンフランシスコを中心に一定の認知を得つつある。シンガポールで「コスパが高く、オペレーションが洗練された日本食」というブランドを国際的に確立できれば、米国西海岸での展開加速への説得力が増す。

 中期的な戦略の構図は、「日本→アジア先進国(シンガポール)→周辺新興国+欧米」という段階的な信頼の積み上げだ。サイゼリヤがアジアでの低価格イタリアンを確立し、スシローが海外での高回転型寿司モデルを磨いていったように、鳥貴族もまた「日本の大衆食」を「グローバルなコスパブランド」として再定義しようとしている。

「デフレ市場で磨かれた競争力」が、世界への武器になる

「焼き鳥2本490円」というニュースには、日本の購買力低下への苦い感情が交錯する。確かに円安と賃金停滞が続く中で、同じ金額が「日本では値上げ」「海外では激安」という文脈で語られることへの複雑さは理解できる。

 しかし経営の観点からは、別の見方が成立する。日本の外食産業が長年の競争と価格抑制圧力の中で磨き上げてきた「超高効率なオペレーション」「標準化されたQSC(品質・サービス・清潔さ)」「価格と品質のバランス感覚」は、世界の物価高に苦しむ消費者にとってまさに求められるコンテンツだ。デフレ経済という過酷な環境で鍛えられたノウハウは、逆説的に「グローバルでの競争力」に転じる可能性を持つ。

 鳥貴族のシンガポール進出は、一企業の挑戦を超えて、日本のサービス産業が海外の成長市場から果実を取り込む構造転換の実験でもある。その成否は、2026年夏に予定される2号店以降の展開と、実際の収益開示の中で明らかになっていく。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=杉田誠/外食産業コンサルタント)

公開:2026.06.21 06:00