牛丼の値引き合戦で出遅れた吉野家は、10年9月に「牛鍋丼」を280円(並盛)で発売。牛丼並盛(380円)より安い価格設定で、1カ月足らずで1000万食を売った。だが、売上高の構成比は、牛丼のほうがはるかに大きい。牛丼人気が吉野家を支えているという構図はまったく変わらない。
牛丼戦争が勃発したのは09年12月である。すき家が牛丼を一気に280円へと、大幅な値下げを敢行したことに端を発する。しかし、吉野家は価格競争への参戦を拒否。従来通りの380円の価格を据え置いた。それまでは、3社とも一杯380円前後で、価格でも収益面でもほぼ横並びだった。
牛丼戦争の緒戦で勝ったのは、価格を一気に値下げした、すき家。敗れたのは価格を据え置いた吉野家だった。すき家が値下げ戦争を仕掛けた09年12月の吉野家の数字を見ると客数は前年同月比で25%減り、売上高は22%のマイナス。これ以降、売り上げの落ち込みが激しく、毎月2ケタの減少が続いた。
結果として、すき家が仕掛けた電撃的な値下げ作戦に、牛丼の本家、吉野家は完膚なきまでに打ち負かされた。それ以降、すき家が独走し、吉野家の独り負けが続いた。
ところが、昨年あたりからすき家の快進撃に急ブレーキがかかった。11年8月には伸びが止まり、9月からマイナスに転じた。以来、今年6月まで10カ月連続の前年割れとなった。これまで効果を発揮してきた値引き合戦の神通力が薄れてきた。消費者が値引きに慣れて、インパクトがなくなったからだ。
さらに、すき家を試練が襲った。コスト削減の切り札は、深夜、1人で調理と接客をこなすワンオペレーション(通称ワンオペ)。これが強盗に狙い撃ちにされた。強盗事件の多発を受け、警察庁が異例の防犯強化を要請。深夜帯の1人勤務を改め、複数体制に変更した。人件費のコスト増は、年間で25億円に上ると試算されている。ゼンショーHDの12年3月期の営業利益は210億円だから、12%弱のコスト増になる。当然、収益を圧迫する。
ワンオぺなど徹底的なコスト削減を武器に、牛丼値下げ合戦を仕掛け、すき家の既存店売り上げは11年7月まで18カ月連続のプラスという記録を達成した。