●今後の展開
—テレビ局側から、「ガラポンTV」に対する反応はありますか?
保田 ある番組制作者は、純粋に番組のつくり手として、ひとりでも多くの人に番組を観てもらいたいという気持ちから、個人的に「ガラポンTV」を応援してくれています。ただ、テレビ局としては、視聴率を目安にお金を稼いでいるわけですから、視聴率にカウントされるリアルタイムの放送を視聴してもらえなくなるのは喜ばしくないという意見もあるようです。
ただ、「ガラポンTV」を使って番組を観るというシチュエーションは、電車の中、寝室のベッドの上、学校やオフィスの空き時間など、今までまったくリアルタイムでテレビ番組を視聴できなかったシチュエーションです。
リアルタイムで視聴されなかった番組を、「ガラポンTV」を使って時間や場所を移してでも、観てもらったほうがよいと私は考えています。「ガラポンTV」で面白い番組に出会い、その番組のファンになってくれれば、次回放送時、リアルタイムに視聴できる状況下にあれば、チャンネルをその番組に合わせる可能性は高くなります。テレビ局の方には、そのことを丁寧に説明するようにしています。
そもそも、視聴率が下がっているのは、リアルタイムの放送を視聴する機会が減っていることも大きな要因と考えられます。今、テレビ局が敵視すべきはガラポンTVではなく、ゲーム機やオンデマンド動画サービスであると思います。それらを使う時、テレビの画面はリアルタイムの放送を消され、すなわち視聴率が減るわけです。
–「ガラポンTV」は今後、海外展開も考えているのですか?
保田 ブラジルにはチャンスがあると思っています。
–それはどうしてですか?
保田 ブラジルのテレビ番組は、その時々で放送時間が長くなったり、短くなったりと適当なんです。だから、視聴者も録画予約をしないし、そもそも録画機が普及していません。最近やっと韓国大手家電メーカー・LGエレクトロニクスからタイムシフト機能がついたテレビが出始めたくらいで、そんな世界に「ガラポンTV」を投入するのは、一段飛ばしともいえますが、ブラジルでいいパートナーと巡り合えれば、ジョイントベンチャーを設立したいです。
–日本国内での今後の展開について教えてください。
保田 日本の法律上、いまは各ユーザーが家に「ガラポンTV」を置いて、サーバーとして利用することで家の外でも観られます。ただ、これだと非効率なので、いずれはクラウドレコーダーにして、「ガラポンTV」をネット上(クラウド)に置いて観る仕組みにしたいですね。
テレビ局や広告代理店がそういった仕組みを本格的に立ち上げるとなったときには、サービスを提供する企業としては弊社が一番ふさわしいと自負しています。なぜなら、そこには必ずソーシャルの仕組みが必要になりますし、それを3年間試行錯誤して実績を積み上げてきているからです。
–ネット上の動画サービスにテレビ番組がアップされていることがありますが、法律上は許されないことですよね。クラウドでも、番組を配信することは著作権法違反になるのではないですか?
保田 そうです。そもそも権利者の許諾を得ずにネット上で配信するのは違法です。そこで、権利者の許諾を得ようとしますが、これも一筋縄ではいきません。ほかにも、広告料金の算定方法などいろいろな課題があります。簡単には実現できないでしょう。テレビ市場がなくなりはしないと思いますが、時代が過ぎるほど、視聴者が減っていってしまう可能性もあります。
「テレビ番組は面白い」と再認識してもらうためには、視聴する時間や場所を自由にして、検索やソーシャルを兼ね備えたサービスを、全テレビ局と広告代理店が足並み揃えて始める必要があると思います。
弊社は今、その理想とするサービスに最も近いものを実現しているとの自負があります。すでに、さいは投げられています。次世代のテレビをめぐり、世界規模でいろいろな動きがあります。ガラポンが来るべき「テレビの未来」の中心にいることができるよう、全身全霊で邁進してまいります。
(構成=本多カツヒロ)
保田歩(やすだ・あゆむ)
ガラポン株式会社社長。慶応義塾大学文学部卒業後、システム開発会社でSEとして勤務。その後、ヤフーに入社し、新規事業の企画立案に携わる。2010年3月、ガラポンを創業。http://garapon.tv/