一昨年秋にPGMからTOBを仕掛けられた際、既存株主をつなぎ留めるため、アコーディアは配当性向を9割に引き上げた。だが、アセットライト実施後は、“みなし当期純利益”の45%にするという。みなし当期純利益とは、特損益を考慮しない当期純利益で、つまり経常利益から税金調整を含めた税負担を差し引いた金額になる。みなし当期純利益が従前の倍になるのなら配当額は同じだが、従前と同じであっても半減する。アセットライトを実施したとたん当期純利益が倍になるとは考えられない。ということは9割配当はわずか2期で反故にされることになる。
●肝心の数字の開示なし
少なくとも保有コース数は3分の1になるのだから、保有コースからの売上高も同様に落ち込む。その代わりに真水の運営受託料が入るので、売上高は減っても利益率は上がるのは間違いない。
だが、常識的に考えれば、アセットライトを実施するということは、現在のアコーディアが売却対象の90コースで上げている利益を、アコーディアの株主とシンガポールの投資家で分け合うことになる。従って、アセットライト後のアコーディアの投資家に帰属する利益の総額は従前よりも減ると考えるのが普通だ。
利益の総額は減るけれど、EPSやBPSの計算根拠になる株数が減るからEPSやBPSは増えるということなのか、それともEPSやBPSも下がるけれど、ROEが上がるから株価も上がるとアコーディア経営陣は考えているのか、そのあたりがわからない。
今回、アコーディアは、5月上旬の2014年3月期の決算発表時までには数字を公表するとしているが、決算短信には来期予想を掲載しなければならないのだから、意地の悪い言い方をするなら、開示せずに引き延ばせる限界が決算発表時であるにすぎない。
そもそもアセットライトは資産の3分の2を切り離すスキームなので、当然株主総会の特別決議事項になる。単なる特別決議なら3分の2の賛成で承認されるが、今回は同社株を2550万株(議決権総数の24.85%)保有する、旧村上ファンドこと旧M&Aコンサルティングの流れをくむレノグループ以外の株主の過半数の賛同も条件にしている。
具体的には、6月下旬の定時株主総会で賛否を問うことになるわけだが、決算発表時点では総会は1カ月半以上も先になる。従って、アセットライトを実施した場合としない場合、両方の業績予想の開示が必要になる。
今回の開示は取締役会決議を経て公表されている。いくら前出の日経新聞の報道により時間的にタイトになったとはいえ、アセットライト実施後にアコーディアという上場会社の貸借対照表(B/S)や損益計算表(P/L)がどうなるのかの数字を持たずに、同社経営陣が判断を下しているわけがない。数字を手元に置かずに判断しているとしたら、それこそ問題だ。手元にあるはずの数字の開示を先延ばしにした意図は一体なんなのかもよくわからない。
●つじつまが合わない信託会社と新アコーディアの利益配分
アセットライト実施後の数字を占う唯一の手がかりとなるのが、説明資料に記載されている「新アコーディア・ゴルフの収益構造」だ。ここには、
(1)アコーディアに残る約43コースから上がる売上高
(2)SPCから受け取る90コースの運営受託収入
(3)シンガポールの信託会社から受け取る配当収入
(4)ゴルフ練習場や用品販売などの売上高
の総合計を100とした場合の構成比が記されている。配当収入以外はすべて売り上げ計上の対象で、配当収入のみが営業外収益に計上されるが、その構成比は、この資料によれば(1)60%、(2)12%、(3)3%、(4)25%だという。133コースからの売上高は834億円(14年3月期会社予想)だが、これが3分の1になるとすると(1)の金額は278億円になる。これが全体の6割だというのだから、(1)~(4)の合計は463億円になる。よって、(2)55.5億円、(3)13.8億円、(4)115.7億円。新アコーディアの売上高は(1)(2)(4)の合計で449億円、約450億円になる。