そのテレビ市場の台風の目になるのが、年内に参入すると予想されるアップルテレビだ。アップルはタッチパネル方式のiPhoneを投入して携帯電話市場をスマホに一変させた。話題性抜群のアップルテレビが売り出されれば、世界的にヒットする可能性は高い。韓国勢と米アップルの挟撃にあい、ソニーのテレビ事業は永遠に黒字にならないだろう。
発表会見時、「(万年赤字の)テレビ事業から撤退しない理由は何か?」との厳しい質問が飛んだが、それに対して「やはりテレビはさまざまなコンテンツを楽しむためのデバイス(装置)として家庭の中心にある。ソニーの中でも重要な商品だ」とカズは答えた。
テレビの黒字化が達成できなかった場合、ソニーが取る選択肢は2つしかない。テレビ事業から完全撤退するか、もしくし自社生産をやめて外部に製造を委託するファブレス(工場をもたない)経営に移行するかだ。完全撤退するには1000~2000億円のリストラ費用が必要になるから、おそらく後者を考えているのだろう。サムスン電子などの韓国勢が先行して商品化した大型有機ELテレビについては、「他社との協業を視野に入れる」(平井社長)として自社では生産しない考えを示している。業界では、台湾の友達光電(AUオプトロニクス)との業務提携・生産委託が有力と見られている。
一方でカズは、中核事業の3本柱の1つにモバイル部門を据えた。スマホ、タブレッド、パソコンを一体化していく方針だが、圧倒的なシェアをもつアップルとサムスン電子の2強にどう対抗していくのか? という戦略は示されなかった。「ソニーの13年3月期の同部門の利益はせいぜい数百億円だろうが、サムスン電子は1兆円くらい稼ぎ出す可能性がある」(前出のアナリスト)。およそ勝負にならない。
また、PSPなどのハード機を主流にしたゲーム事業は、現在、携帯電話で遊ぶ交流ゲームが世界規模で台頭し、デジカメも2強として立ちはだかるキヤノンとニコンにどう対抗していくかという対策は示されていない。中核事業と位置付ける3事業とも、他社を圧倒するようなヒット商品を生み出してはいないのだ。
こうした一連の施策により、15年3月期連結決算の数値目標を、売上高は12年同期より2.1兆円多い8.5兆円、営業利益率は5%以上(12年期は950億円の赤字の見通し)としているが、市場の評価は実に冷ややかだ。
ソニーといえば、ハワード・ストリンガー前会長兼社長兼CEO(70)が就任した05年6月以降、今回と同様の経営方針説明会を3回開催。いずれも「営業利益率5%」の目標を掲げたが、これまで一度も達成できていない。その結果”嘘つきストリンガー”とさえ呼ばれた。
「何度も失敗に終わった5%への道筋が、今回も明確になっていない」(エレクトロニクス担当のアナリスト)
結局のところ、ソニーの5代目CEOとなったカズの新経営方針からは、将来の稼ぎ頭は何で、どうやって儲かる分野に経営資源を集約するのかといった経営戦略が見えてこない。市場は、経営方針の実現性に不信感を強めている。経営再建への具体的な方策を示せない限り、株価は上昇しない。もし、ソニーが今、テレビ事業から撤退すれば株価は500円、いや1000円上がるだろうに。
(文=編集部)