ビジネスジャーナル > 企業ニュース > ヤンマー、エルメス化は失敗?  > 2ページ目
NEW

ヤンマー、“エルメス化”改革は成功するのか?天気予報からフェラーリ型トラクターへ

文=牧田幸裕/信州大学学術研究院(社会科学系) 准教授

 日本の農業は諸外国と比較し、事業規模が小さい。その結果、農業における事業生産性は諸外国と比較し、非常に低い。わかりやすく例えると、家電販売店や衣料販売店でいえば、商店街にある小さなパパママショップのようなものである。一方、諸外国の農業は、ヤマダ電機やビックカメラ、ユニクロだと考えればよい。どちらが事業生産性が高いかは、一目瞭然だろう。

 そこで現在、日本では農業の大規模化、工業化が推進されている。このトレンドに乗るなら、ヤンマーが目指すべき方向は、大規模プラントにおける生産性向上を果たすような大型トラクターの提供であり、生産管理サービスである。決してフェラーリ風の小型トラクターではない。

 また、若い農業従事者を呼び込む目的で作業着を開発したというが、これは本末転倒だ。農業従事者は高齢化が進み、若年層の農業従事者が少なく、将来的に尻すぼみの産業になっているが、筆者はそれで問題ないと思っている。というのも、家電販売店のパパママショップと同じで、大型量販店がその役割を効率的に代替してくれるからだ。前述のとおり、農業の事業生産性を諸外国と同レベルにするには、農業の大規模化、工業化が必要である。将来的に農業の担い手は、個人農業従事者ではなく、企業だ。だから、ここでもお洒落な農業作業着(図表2)は必要ないというのが、筆者の考えだ。

 もちろん、若年層がこれから農業事業に参入することを否定しない。小規模ながらも有機農業など、差別化を図れるビジネスモデルであれば、事業としての成功可能性は十分にある。しかし、彼らは自分の夢が農業であったり、事業として魅力を感じるから農業に参入するわけであり、作業着が格好良いから農業に参入するわけではない。それゆえ、若い農業従事者を「呼び込む」目的で格好良い作業着を開発しても、若者は「呼び込まれ」ない。

 一方で、海外事業を中心とするマリンスポーツ領域では、デザインの高品質化が効果を及ぼすだろう。欧米諸国の富裕層を主戦場とする高級プレジャーボートでは、デザイン性が購買決定要因の中で重要な要因となりうるからだ。特に日本製品は富裕層向け製品でも、デザイン性を軽視し、機能性で勝負し負けていることが多い。だから、マリンスポーツ領域におけるヤンマーの取り組みは、他の日本企業が軽視している(または、苦手としている)デザイン領域に先進的にチャレンジするものであり、競争力を高めることができるだろう。

●事業の将来性予測における3つのポイント

 今回は、ヤンマーをケースとし、その事業の将来性を予測してみた。事業の将来性を予測するときに重要なのは、

 1.誰に提供するのか
 2.何を提供するのか
 3.提供するものを喜んでもらえるのか

という3つの要素を検討することである。

 ヤンマーは、デザイン性を高めた製品を提供する(2)という方針を打ち出したが、農業従事者(1)は、それを必要としない(3)という予測をし、欧米を中心とする富裕層(1)は、それを重視する(3)という予測をした。その結果、それぞれの事業で明暗を分ける予測をしてみた。

 新聞を読んだり、ビジネス誌を読む時に重要なのは、ただボーッと記事を眺めるのではなく、このように記事から「このビジネスはうまくいくのかな?」「うまくいかないのかな?」と自分の視点・判断軸で、考えてみることである。

 これからも、筆者の視点で考えるビジネス記事の読み方、楽しみ方をご紹介していくので、お楽しみにしていただきたい。
(文=牧田幸裕/信州大学学術研究院<社会科学系> 准教授)

牧田幸裕/信州大学大学院 経済・社会政策科学研究科 准教授

牧田幸裕/信州大学大学院 経済・社会政策科学研究科 准教授

京都大学経済学部卒業、京都大学大学院経済学研究科修了。ハーバード大学経営大学院エグゼクティブ・プログラム(GCPCL)修了。アクセンチュア戦略グループ、サイエント、ICGなど外資系企業のディレクター、ヴァイスプレジデントを歴任。2003年、日本IBM(旧IBMビジネスコンサルティングサービス)へ移籍。インダストリアル事業本部クライアント・パートナー。主にエレクトロニクス業界、消費財業界を担当。IBMでは4期連続最優秀インストラクター。2006年、信州大学大学院 経済・社会政策科学研究科助教授。2007年、信州大学大学院 経済・社会政策科学研究科准教授。2012年、青山学院大学大学院 国際マネジメント研究科 非常勤講師。2016年、長野市産業振興審議会 副会長。2018年7月より現職。
牧田 幸裕|note

ヤンマー、“エルメス化”改革は成功するのか?天気予報からフェラーリ型トラクターへのページです。ビジネスジャーナルは、企業、, , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!