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高井尚之が読み解く“人気商品”の舞台裏(9月10日)

停滞するヤマト運輸 不祥事で止まった爆発的成長、「配達品質」取り戻し再成長なるか?

文=高井尚之/経済ジャーナリスト

●クール宅急便の常温放置問題

 その「荷物がかわいそう」をやってしまったのが、13年10月に発覚したクール宅急便の常温放置問題だ。全国に約4000あるヤマト運輸の営業所のうち約200カ所で、クール宅急便(10度以下で扱うべき「冷蔵」とマイナス15度以下の「冷凍」)として預かった荷物について、保冷用コンテナを開け放つなど、荷物を常温で放置していたことが内部告発により発覚した。

 顧客に届ける前段階となる営業所では、「530仕分け」(5分以内、30秒以内)という社内基準を設けている。これは冷凍・冷蔵機能のある保冷ボックスで運ばれてきた荷物を5分以内に取り出す、ボックスから次の運送車両などに積み替える際に外気に触れる時間を30秒以内と定めたものだが、これが徹底されていなかった。

 一連の報道を受けて、同社は再発防止策に取り組む決意を示す。同年11月にクール宅急便の温度管理に関する調査結果と今後の再発防止策」を発表し、14年4月には荷物の積載容量に応じて保冷スペースを変更できる車両を導入するなど、失った信頼の回復に乗り出している。

●同社の社訓 「ヤマトは我なり」を周知徹底できるか

 ヤマト運輸の14年3月期「決算短信」の中で、社外に向けた公約として以下のような一文を載せている。

「昨年10月に判明したクール宅急便の社内ルール不徹底については、サービス品質の維持・向上に取り組む専任部署、専任者を配置するとともに、必要な機材の導入を推進するなど、温度管理の徹底に向けて取り組みました。また、宅急便取扱数量の大幅な増加時においても配達品質を維持するため、体制の整備を推進しました」

 その後も、女性配送員を今後3年で5割増やして2万人体制にするといった施策が発表された。

 ヤマト運輸を取材すると、どの社員からも「ヤマトは我なり」との言葉を聞く。これは小倉康臣初代社長時代の1931年に掲げられた3つの「社訓」の最初にくるもので、従業員一人ひとりが「我=ヤマト」という意識(会社を代表する全員経営の精神)を持つというもの。営業所などの現場では毎日唱和されているという。

 また「ラストワンマイル」という言葉もよく耳にする。こちらは顧客に荷物を届ける最後の距離を示したものだ。

 10年以上前、製造業以外では「品質」という言葉を耳にする機会が少なかった当時から、ヤマト運輸の社員は「配達品質」を意識していた。ラストワンマイルとも関連するが、荷物に込められた顧客の思いも配達するのだという。

 冒頭のネット通販に話を戻すと、品物が届く際の配達時間厳守や配送員の立ち振る舞いも顧客満足に関わる時代だ。それがヤマト運輸の目指す「配達品質」へとつながっていく。

 今期4~8月までの宅急便取扱個数は、対前年同期比96.2%と成長が停滞している。

 ヤマト運輸社内には、宅急便の沿革などを国内各拠点に伝えるための映像もある。成功体験だけでなく、失敗体験をも社内でどう共有し、今後の活動に生かしていくかが、再成長のカギだ。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト)

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。これ以外に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(同)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、著書多数。

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