意外に身近な企業なのだ。(「Thinkstock」より)
「まさか富士電機が買うとは」――同社はルネサスエレクトロニクスの津軽工場(青森県)を、38億円投じて取得した。昨年度末ギリギリに飛び込んできたニュースに、電機業界関係者は驚きを隠さなかった。ルネサスは構造改革の真っただ中で、津軽工場の売却は既定路線ともいえよう。ただ、老朽した工場だったこともあり、買い手がつかず閉鎖はやむなしという見方が支配的だった。そもそも津軽工場は自動車や白物家電の制御に使うマイコンを生産している。一方、富士電機は電力の変換に使い、省エネルギー効果があるパワー半導体を手がける。半導体と言っても、実はまったく異なる分野なのだ。ではなぜ同社は、今回の取得に動いたのだろうか。
富士電機関係者は「当面はルネサスのマイコンを受託生産して、段階的にラインをパワー半導体に切り替えていく。改修分を含めても、工場を新設するより半額以下ですむ。市場拡大を見据えてつばをつけた」と取得の意義を語る。
新工場、ただの国内雇用対策という一面も
実際、パワー半導体の需要は拡大している。世界的な省エネルギー機運の高まりを受け、世界市場は20年には11年比2倍の4兆5000億円に達するとの試算もある。エアコンや自動車などで用途が拡大する見通しだ。ただ、こうした成長性を踏まえても外資系証券アナリストは「富士電機は、パワー半導体事業に突っ込みすぎでは」と危惧する声が多い。
というのも富士電機は現在、長野県とマレーシアでパワー半導体を生産しているが、生産能力にはまだ余裕があるからだ。これに加え、今年の上期内には山梨県に185億円を投じた新工場が稼動開始するが、この新工場の設立自体、実は能力拡張の意味は少ない。「もともと山梨ではハードディスク部品を手がけてきたが、円高や生産性の低さから全量を海外に移管した。ただ、従業員のクビは切れない。雇用対策のため、ハードディスクの工場をパワー半導体の工場に刷新した」。同社関係者は新工場の内情をこう語っている。いうなれば、事業成長性はあるものの、国内雇用というやむを得ない事情があった、というわけだ。
また、お買い得とはいえ、津軽工場の取得でもうひとつ新たな工場を抱えることになる。同社は国内のパワー半導体分野では三菱電機、東芝に次ぐ3位だが、三菱も東芝もパワー半導体への最近の年間投資額は100億円程度にすぎない。この投資額からも富士電機が半導体に異常ともいえる傾注を示していることがわかる。