リブセンス、スピード上場のお手本は、田中角栄のバラまき政治?
祝い金の金額も、「図書カード5000円分」のようなありがた味がイマイチですぐに忘れ去られそうなものではなく、10万円の現金をポンと進呈するところが、インパクトがあってエッジが効いている。このシステムは、ネット社会のリスク管理で最近よく聞かれるようになった「レピュテーション・マネジメント(評判の管理)」のお手本になりそうだ。
田中角栄は、レピュテーション・マネジメントの神様?
もちろん、レピュテーション・マネジメントについてコンサルタントの先生方が書いたものには、「お金を渡せば会社の評判は良くなります」なんて、絶対に書いていない。
教科書的に言えば、レピュテーション・マネジメントはCSR(企業の社会的責任)の一環で、会社に対する消費者や一般社会からの評判を管理し、企業価値の一層の向上を目指すこという。それには良い企業イメージを守り、より高めていくという目的と、スキャンダルなどで傷ついた企業イメージを回復させるという目的がある。
レピュテーション・マネジメントの本には、
「会社の評判は無形の資産です」
「レスポンスはすばやく」
「情報はできるだけ隠さず迅速に、詳細に伝えましょう」
「真っ赤なウソや根も葉もない噂、理不尽な要求には毅然と対応しましょう」
など、オリンパスや大王製紙はもちろん、外務省あたりにも読ませたいことがたくさん書いてある。
その外務省の大きな仕事は、世界に向けて「日本国のレピュテーション・マネジメント」を行うことなのだが、今まで「人を出さずにカネばかり出す」とさんざん批判されながらも、ODA援助や円借款などで世界中の途上国にカネをばらまいてきたことが、結果的に海外での「JAPAN」の評判を良くして、進出する日本企業はビジネスがしやすくなっていることを忘れてはいけない。
政界にしても、カネをケチらなかった政治家はみんな評判を高めている。
例えば、1970年の日米繊維交渉の最終段階で当時の田中角栄通産大臣は、アメリカの要求をのむ代わりに、損失を被る日本の繊維業界に国から2000億円ものキャッシュをプレゼントするという最終手段で、長年もめていた交渉を決着させた。70年度の一般会計当初予算は約8兆円で現在のほぼ12分の1なので、2000億円は今なら2兆4000億円に相当するような巨額である。おそらく当時の繊維業界にとって、田中角栄は神様に見えたことだろう。
渋る大蔵省(当時)を政治力をバックに説き伏せ、予算化させた剛腕は政治家・田中角栄の評判を大いに高め、2年後に総理大臣にのぼりつめる。
「金権政治」と批判されたのは、首相になった後のこと。最後に物を言い、人を黙らせ、人を喜ばせ、もめ事を終わらせて自分の評判を高めるのは、カネなのだ。田中氏の弟子の小沢一郎氏が提唱した「農業者戸別所得補償制度」は、その発想と手法を継承している。
レピュテーション・マネジメントなどという言葉がまだなかった時代、今はやりの言葉で言えば、田中角栄はその「神」だった。
(文=寺尾 淳/フィナンシャルプランナー)