日本の先端技術“から攻める”韓国サムスンに駆逐される日本企業?
日本の高度成長モデルと同じ
第二には、政府の支援である。韓国にしても、中国にしても、産業政策は基本的には1960年代に日本経済を高度成長に導いたMITI(通産省)型モデルを踏襲していると見ていい。
韓国の場合、21世紀には入ると従来のフルセット型の財閥が解体され、政府がリードするかたちで産業ごとに企業が再編整理され、
・電機はサムスン(三星)とLG
・自動車はヒュンダイ(現代)
・造船・重機はヒュンダイ、デーウ(大宇)
などというように数社に限られた。こうして国内の過当競争は押さえられ、生き残った企業は国内で稼いだ収益で技術・海外投資などを積極化し、海外に出て行ける環境が整ったのである。
過当競争が常態化しつつある日本と、この点が大きく異なる。加えて、技術開発投資などに対する政府の支援も手厚い。冒頭の水処理膜についても、政府から相当の支援があった模様だ。また高度成長期の日本が、1ドル=360円という超円安を生かしたように、為替を自国通貨のウォン安になるように、韓国政府が随時介入しているといわれる。この点も、韓国企業を優位に立たせている。
三つ目は、最近の電機・機械産業などにおけるモジュール型生産システム拡大の影響だ。
このシステムは、ごく簡単に言ってしまえば、ある機能を持った部品を調達してきて、それらを組み立ててしまえば一丁上がりで、完成品が出来上がる生産システムである。IT技術が進化した結果、アナログ時代と異なり多様な部品も、複雑な生産工程も、そして熟練した技能者もなしで、高度な機器が製造できるというわけである。しかもICや太陽光発電機器などのように、設備機器メーカーが製造設備をセットで、しかも工場運営のノウハウまで付けて売る時代に入っている現在、資本と一定程度教育された労働力のある国や地域は、たやすく先進国並みの製品をつくることができる。
中国がGNPで世界第二位に躍り出ることが可能になったのは、このモジュール型システムが進んだがゆえである。でないと、いかに低廉な労働力が豊富にあったとしても、急成長は達成できなかったであろう。
また韓国の対日貿易が韓国側の大幅な輸入超過になっているのは、完成品の輸出が増えれば増えるほど、日本からのモジュール型部品と製造機器の輸入が増えるという抜きがたい構造があるからである。
●サムスンは技術革新を起こしていない
が、である。
それだけでは、韓国企業の急激な技術力アップの理由は、説明しきれないと、日本の産業界関係者は見ている。では、何が考えられるか?
例えば、東京大学大学院ものづくり経営研究センター特任研究員で、かつてサムスン電子で常務を務めたこともある吉川良三氏が、講演等で明らかにしていることがある。
吉川氏は「サムスンでは、イノベーション(技術革新)はほとんど起こっていない」としたうえで、製品開発の特徴をについて、
「サムスンの場合、世界中から最新の技術やパーツを導入して、モジュール型の製品開発を行ない生産するので、非常に短時間で(先行企業を)キャッチアップして安価に大量生産でき、グローバル市場で地歩を築くことができる」
と語っている。
吉川氏は、サムスンの方式を「リバーシブルエンジニアリング型」と呼び、次のようにその実態について語る。
「構造調査で日本の製品を分解して、機能と性能、部品などを徹底して調べ上げて、日本が到達した最新のイノベーションの成果からスタートする。これをベースにして、グローバルな視点から商品を企画して、機械設計・製品設計を行ない、既存の部品であるオープンなモジュラー部品を多用して最新の製品を生み出すのである」
となると、世界各国のニーズの異なる市場にフィットして、商品を安価に、効率的に、スピーディに提供できるのは当然の理である。しかもサムスンの場合、リ・ゴンヒ(李健熙)オーナーのワンマン経営企業体であり、多少のリスクがあっても、商品開発、市場開発に大胆かつ集中的な投資ができる。スピード感も違う。