価格は「牛すき鍋定食」が580円、「とろりチーズカレー鍋定食」と「野菜たっぷり牛ちり鍋定食」は650円。同社の定食としては最高価格だ。牛丼は工場である程度調理済みのものを店舗で温めて提供していたが、店頭での仕込みの手間が格段に求められる。すき家はコストを下げるためにぎりぎりの人員しか配置してこなかった。1人で勤務する「ワンオペ店」では時間と手間がかかる鍋商品がメニューに加わったため、激務に耐えかねアルバイト店員が大量に辞め、これが一部店舗の閉店につながった。
労働環境に批判が強まり新規のアルバイト店員を採用できず、今年4月、最大で123の店舗が営業できない状態となった。これを受けゼンショーの小川賢太郎会長兼社長は第三者委員会(委員長・久保利英明弁護士)を設置し、改善策を求めた。7月31日、同委員会は調査報告書を公表し、深夜の時間帯におけるワンオペの解消を求めた。
ワンオペ解消は業績を直撃した。15年3月期連結業績予想を大幅に下方修正し、売上高は157億円減額して5092億円、営業損益は98億円減額して17億円の赤字に転落する。13億円と見ていた最終赤字は6倍近い75億円に拡大する見通しだ。
10月から深夜のワンオペを取りやめ、対応できない店舗は深夜営業を休止したが、この一連の措置による収入減と費用増のダブルパンチで収支の悪化が避けられない。さらに牛肉などの資材高騰も追い打ちをかけた。ゼンショーにとって営業赤字・最終赤字は1982年の創業以来初めて。年間8円を予定していた株主配当も初めて見送り、ゼロとする。その挽回策として、11月27日から「牛すき鍋定食」の販売を開始した。価格は734円(税込)。今冬の吉野家とすき家の「鍋対決」は、どちらに軍配が上がるのか、注目が集まっている。
吉野家の14年8月中間期(3~8月)連結決算の売上高は前期比2.5%増の889億円、純利益は4.3倍増の9億円と増収増益だった。消費税が引き上げられた4月、牛丼並盛280円という業界横並びの価格設定が崩れた。吉野家は300円に値上げしたことが収益を押し上げた。
松屋フーズは280円から290円に値上げ、すき家は270円に値下げしたが、15年3月期に赤字転落する見通しとなったため牛丼メニューを一律で20~40円値上げした。
「牛丼は500円時代になる」(外食業界関係者)ともいわれる中、デフレ時代の勝ち組だった牛丼業界は大きな変化の過渡期を迎えた。
(文=編集部)