大塚家具騒動、父娘の「純粋な使命感」が招いた問題の本質 ロボット軍団を生むワンマン企業の罠
●なぜ、これができないのか?
とかく創業者は、「早くやれ」「いつ、その数字を出せる?」とスピードを重視します。創業者はすべてのことを自分の頭で判断して、素早く意思決定し、素早く実行に移し、素早く修正をする。すなわち、自分自身で素早いPDCA(Plan-Do-Check-Act)を回すことにより、事業を成功に導いていきます。これは、資金や人材の乏しい中で、金と時間に追われて効率的に事業を伸ばすために、必然に迫られて習得した成功のための習慣です。
しかしながら、このやり方は自分以外の人間には考えることを許しません。ただ言われたことをそのまま実践するだけの「指示されたことのみを忠実に実施するロボット軍団」をつくり上げてしまいます。この状態で企業を引き継ぐことになる次の代の社長は、イエスマン体制では企業を回すことができないことに気が付いているので、体制づくりから始めなければなりません。
一方、創業者は部下の判断をあまり信用していない傾向があります。自分が部下にPDCAを回すことを許さなかったゆえに、学習の機会を与えず、それが大きくなった企業が伸び悩む原因である点に気付いていません。社員が自分で判断できる体制づくりには価値を見いだせないため、社内の能力アップに取り組む新社長に対し、「お前は、人に任せるのか。無責任な社長だ」とばかりに不快感を露骨に表すものです。
創業社長は、事業成長の重要さ、すなわち売り上げの伸びが利益の伸びの源泉になることを理解しています。その結果として、経費については「当たり」を求めて、傍目には「放漫な支出」と映るかたちで使ってしまうことが多いものです。次の成長の機会や突破口をなんとか見いだそうとさまざまな経費を使いますが、いかんせん、市場が変化していると昔のやり方のままでは、かつてのような効果を見込むことはできません。一方、次の成長機会を模索する新社長は、とりあえず自身の実績を見せるために、これまで支出していた経費を精査して増益を達成しようとするものです。よって、この経費管理による増益についても、双方の評価はまったく分かれてしまうことになります。
取るべき事業戦略についての議論を行い、合意を取るために必要な市場・事業の「見える化」を行う分析には、手間やトレーニングの時間、そして仮に外部を使えば費用がかかります。ところが創業社長は「答えは現場にある」として、そうした調査・分析に価値を見いだしません。また、2代目社長は利益確保のために余分な経費はかけたくないと考えて、現状の「見える化」のための調査や集計作業には費用をかけず、結局、時間の無駄となってしまう「空中戦」のような議論が延々と続くことになります。
また、マスコミの前で勝久氏が「社員のために……」という発言をしていましたが、これはおそらく「今の社内の強みを活かしているのか、本当にその戦略はしっかりとした実践がなされるのか」という問題を提起したいのだと解釈できます。戦略の立案とその実践は、それぞれまったく別の難しさがあります。創業者がこれまでの路線に固執したいという単純な話ではなく、新社長の新しい方向性の戦略が、今の社員で本当に実践できるのか、すぐに結果に結びつけられるのか、ということが不安なのだと推察されます。
こういう状態は、事業承継に際して、どこの日本企業でも起こり得ます。現時点では勝久氏と久美子氏の和解が望ましいのですが、現実的には双方株主の株数確保による決着となると予想されます。もともとは「父親似の久美子氏に任せたい」という勝久氏との信頼関係があった状態から始まり、今の状況を招いているわけですから、利潤動機や謀略が陰で渦巻くような陰湿な側面がありません。勝久氏と久美子氏のどちらが経営をしても、その実践が徹底され、軌道修正が的確にできさえすれば、それなりの結果を出すことができるでしょう。
「事業価値を向上させてほしい」という株主の意思に基づいて社長が指名される体制が十分機能しておらず、プロの経営者が育つ土壌の乏しい日本企業においては、前述のスタッフや内外の参謀機能は本来、必須なのですが、残念ながらまだそれに気がついている企業は大変少ないのが実情です。
(文=稲田将人/RE-Engineering Partners代表取締役、経営コンサルタント)