さらに、受注すると今度は子会社の長谷工アーベストが販売企画を持ち込んで不動産会社から販売を受託し、同じく子会社の長谷工コミュニティがマンション管理を受託する。つまり、同社の土地持ち込み営業は、マンション事業を一気通貫で一括受注する点で他のゼネコンと違っている。専業ゆえのビジネスモデルともいえ、それが高収益の源泉になっているのだ。
同社はこの土地持ち込み営業により、市場環境が厳しい時期でも首都圏で年間1万戸、近畿圏で5000戸をコンスタントに適正額で受注してきた。
前出のOBは「工事受注の営業だけであれば、競合になり受注額を叩かれるし、日参した挙げ句に発注を断られるケースも多い。マンション工事は採算が悪いといわれる一因です。しかし、長谷工の土地持ち込み営業は、そういうことが少ないのです。長谷工の新人営業マンが配属先で最初に行う仕事が用地探しです。探し方は、上司も先輩も教えてくれませんが、暗中模索で探しているうちに、やがて用地探しの嗅覚が身についてきます。そして、親ぐらいの年齢の地主と難しい交渉を重ねる中で、駆け引きの感覚も自然に磨かれていきます」と語る。
この土地持ち込み営業を陰で支えているのが、施工能力の高さだ。同社には、年間約1万5000戸のマンション建設を施工可能な協力会社が東西に揃っている。
その大半が、同社のマンション建設参入以来の付き合いで、しかもマンション建設専業だ。当然ながら、職人もベテランが多い。前出のOBは「長谷工は、コンスタントに年間約1万5000戸の工事を東西の協力会社に発注してきました。彼らにすれば『将来、仕事がなくなるかもしれない』という心配がありません。それが同社から離れなかった理由であり、経営が安定しているからこそ、職人も育成できたのだと思います。難易度の高い工事でもトラブルやクレームが少ないという、同社の施工能力の高さにつながっています」と語る。こういった背景も、高収益の一因になっているようだ。
前途多難な次の成長戦略
足元の業績は好調だが、マンション建設の市場環境は厳しい。特に今後は、人口減少で新設住宅着工戸数減少が予測されている。例えば、野村総合研究所は14年7月に発表した「2025年の住宅市場」で「今後数年間は90万戸前後で推移するが、その後は漸減し、25年には62万戸になる見通し」と分析、「60万戸時代到来」を予測している。
そこで、長谷工が次の成長戦略に据えているのが「マンションストック事業」だ。同社は新築分譲マンション累積建設戸数56万戸に加え、同マンション管理受託約31万戸、賃貸マンション運営・管理受託約10万戸のストックを持っている。これらストックの補修やリフォームで成長していくというもくろみだ。前出のOBは「00年前後に建設した大型マンションの改修工事が増える時期に来ている」とも語る。
だが、マンションストック市場は不動産会社、ゼネコン、住宅メーカーなど住宅関連事業者の大半が狙いを定めており、競争の激しいレッドオーシャンだ。同社がこれまでのマンション建設事業で培った強みを生かし、この激戦市場でいかに勝ち抜き、高収益を上げられるのか。ゼネコン業界関係者の注目が集まっている。
(文=福井晋/フリーライター)