勝久氏は発言内で「私には5人の子供がいて、最初の子供はとても難産で」などと家族のことに触れ、それが一般株主に強い違和感を覚えさせた。その後、一般株主が何人も質問に立ったが、勝久氏の独善的な差配を指摘したり、今回の騒動を批判する発言が続いた。
ところが、勝久氏はそんな成り行きを無視するかのように「(勝久氏の三女の夫である)佐野(春生)取締役に聞きたい。佐野取締役がクーデターの本人だ」など感情的な指摘を続け、「会社をこれからどう再建し軌道に乗せていくのか」といった一般株主の興味から離れていった。総会には報道機関が入ることは許されなかったが、音声が一部流出。勝久氏の発言は感情的なトーンとなることもあった。
●支持を得られなかった最大の理由
さらに勝久氏の妻、千代子相談役も株主として発言したが、久美子氏を諌めるような長い発言の途中で一般株主から失笑が漏れたり、「もうやめろ」などと野次を浴びる有様となってしまった。勝久氏は最後に次のように訴えたのだが、将来のビジョンや方策を示すことがなかった。それが一般株主の支持を得られなかった最大の理由だろう。
「会社が10年前、15年前に戻れるようにしたい。元気な会社になるのに1年、2年かからないと思う。会社が悪くなったのではない。会社を悪くしてしまったんだ。私がこれだけ深刻に考えているということが伝わらないのは残念。存続できるのは私しかいないと思っている」
勝久氏がもし冷静に自らのこれまでの貢献を振り返り、これから先のビジョンや展望を話すという切り口で臨んでいれば、総会の空気は随分変わったのではないか。勝久氏は総会前までは「基礎票」を握っていたのに、対応に失敗した。単純に「自分を信じてくれ」では、他人である一般株主に対して通用しない。
総会当日も結局、久美子氏の「知」と勝久氏の「情」の対決となり、「知」つまり「論理」を前に出した久美子氏が支持を得た。
(文=山田修/経営コンサルタント、MBA経営代表取締役)
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