チェキ、なぜ土壇場から劇的復活?韓国・中国での人気、競合企業の破産を追い風に活性化
旧主力事業の遺産である「モノ」や「ヒト」も生きた
長年にわたり写真と向き合ってきた富士フイルムは、デジタル時代におけるインスタント写真の魅力を、「アナログならではの温かみのある画質」「撮影後すぐにプリントを手にできる」「世界に1枚しかないプレミア感」と解説する。それに加えて、「プリントして仲間に配ることでコミュニケーションが深まる」という副産物もある。
だが、なぜデジタル時代にアナログ商品を残すことができたのか。理由として考えられるのは、写真という創業以来の主力事業だったこと、そして余力のある大企業だったことだ。
余力のある大企業の場合、長年のドル箱だった主力事業が持つレガシー(遺産)は、外部の人がイメージする以上に大きい。それはキーテクノロジー(基盤技術)やキーマテリアル(基盤素材)といったモノであり、事業を支えてきた人材だ。こうした底力も同商品の再拡大を支えたといえよう。
再拡大期を迎えた今、同社がチェキシリーズで掲げる言葉も少しずつ変わってきた。12年9月に発表したニュースリリースでは「今後もお客様により楽しく豊かなフォトコミュニケーションを提案し続けていきます」だったのが、13年8月と14年10月に新機種や新色を追加投入した時には「チェキの魅力と共に『撮る、残す、飾る、そして贈る』という写真本来の価値を伝え続けていきます」と具体的になった。
商品シリーズの位置づけも、スマートフォン用プリンター「スマホ de チェキ」を発売し、ターゲットをスマホユーザーにも拡大したことで、「インスタントカメラ」から「インスタントフォトシステム」へと広がっている。
さまざまな業界でビジネス環境が一気に変わり、それまでの強みが弱みになる時代だが、逆に弱みと思われたことが強みになるケースもある。それは機能性とは違う情緒性だ。前述の「アナログならではの温かみ」は、そんな情緒性を象徴する言葉といえる。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)