「軽自動車市場シェアトップは、消費増税後に投入した新型車6車種が年後半に出揃い、これらが顧客から支持された結果だと受け止めている」(ダイハツ)
14年暦年の軽自動車市場シェアでは、「ハスラー」などの販売が好調に推移したスズキが、8年ぶりにトップの座に返り咲いた。2位に下落したダイハツとの差は2795台の僅差だった。スズキが新型車として年末に「アルト」をフルモデルチェンジして投入したのに対して、年間6車種という異例のペースで新型車を投入しながら敗れたダイハツの衝撃は大きかった。
シェアトップから陥落したダイハツは15年の年明けから販売攻勢を本格化、年度ベースでのシェア死守に血道を上げてきた。この結果、最終的に14年度のスズキの軽自動車販売台数が67万9357台だったのに対して、ダイハツは68万7393台となり、8036台差でダイハツが9年連続の軽自動車トップの座を死守した。シェアにしてわずか0.3ポイント差だった。
ただ、年度ベースでダイハツがシェアトップを確保するため無理な販売を行ってきたことが、今後の市場に大きく影響するとみられている。軽自動車メーカーはシェアを確保するため、「自社届け出」と呼ばれる施策を実施して販売台数を実態より膨らませるケースがある。「自社届け出」は、販売会社自らが購入したかたちでナンバーを取得して販売台数をかさ上げする手法。これら自社届け出車は、中古車オークションなどを通じて「未使用車」などと銘打って中古車販売店で販売される。
税制改正で、今年4月以降に届け出された軽自動車の新車は、軽自動車税が1.5倍に増税となった。3月末までにナンバー取得した軽自動車は、増税前の低い軽自動車税が適用されることもあり、「ダイハツは昨年12月から今年3月にかけて全国の販売店で、軽自動車を大量に自社届け出した」(業界関係者)。増税前の軽自動車税が適用される軽自動車の「未使用車」なら「大量に在庫を抱えても処理できる」との自信を背景に、ダイハツはグループ挙げて年度でのシェアトップ確保に力を結集した。
スズキは利益率重視でシェア争い降りる
一方のスズキも年度でのシェアトップ奪還を目指して、ダイハツ同様に取り組んできた。「自社届け出によってシェアトップを確保することもできた」(スズキ関係者)ものの、競争激化によるこれ以上の利益率低下を嫌い、年度シェアトップの奪還を3月途中で断念した。
実需を大幅に上回る無理な販売を続けてきた結果、今後の軽自動車市場は反動で大幅に落ち込むことが懸念されている。日本自動車工業会が3月19日に発表した15年度の国内需要見通しによると、軽自動車市場は前年度比5.4%減の190万台と低迷を予想する。軽自動車税増税の影響や、大量の「未使用車」が新車需要に取って代わるのに加え、シェアトップ争いを演じてきたスズキとダイハツが疲弊して、今後は無理な販売を手控えるとみられるためだ。
国内新車市場の4割を占めるまで存在感を高めてきた軽自動車だが、実態以上の需要を創造してきたツケが、ここにきて回ってくることになりそうだ。
(文=河村靖史/ジャーナリスト)