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高井尚之が読み解く“人気商品”の舞台裏

異次元の長寿ヒット商品・ハーゲンダッツの謎 裏には、こんなに秘密が隠されていた!

文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

 ハーゲンダッツは昨年、野菜味の「スプーンベジ」のシリーズとして、「トマトチェリー」「キャロットオレンジ」の2種類を市場に送り出した。発売直後に業界紙編集長が「過去に野菜味でヒットしたアイスはないので難しいだろう」と予想した通り、ヒット商品とはならなかったが話題性は高かった。インターネット上でも盛り上がり、「意外においしい」「微妙」「スイーツよりも体をいたわる健康食品」といった感想がブログなどで散見された。

消費者が期待するのは「味」とともに「情緒性」

 消費者意識が多様化した現代では、アイスクリームに求められる価値も変わってきた。最近のキーワードは「大人」と「情緒性」だ。多くのアイスメーカーのブランド訴求に当てはまるもので、付加価値を打ち出して価格を高めながら、広告宣伝では「風呂上がり」などのアイスを楽しむシーンを訴求している。

 実際の食べられ方でも、例えばスマートフォンを操作しながらの「ながら食べ」が目立っているという。ハーゲンダッツでいえば、片手で食べられる「クランチークランチ」(バーアイス)や「クリスピーサンド」などは、ながら食べに向く商品といえそうだ。

 同ブランドに求める情緒性で多いのが、「自分へのごほうび」「食べて幸せになりたい」「リフレッシュしたい」だという。定番品の人気を消費者心理で考えると、新商品への興味はありつつ、数百円を出す高級アイスでは「好みの味を外したくない」といった心境が見て取れる。

 前述した「行列文化」を起こした直営店も、同社は13年ですべて閉鎖して一般小売りに特化した。近年はコンビニ最大手のセブン-イレブンと共同し、限定品も打ち出している。セブン側にとっても高級アイス市場は魅力があり、「夏場の売り上げが大きい氷菓系とは違って、春夏と秋冬の売り上げに差がほとんどない」という。

 小さい頃からアイスクリームを食べて育った人が大人になり、メーカーや流通の販売促進策も功を奏して、近年は「大人向けデザート」となったアイスクリーム。10年以上前にハーゲンダッツを取材した際も「ライバルはすべてのデザート」と話していたが、それが一層強まった感がある。

 これから夏に向けての最盛期に向けて、各社の販売促進が一段と盛んになるアイス市場。人気の「鮮度」を保ちつつ、消費者の関心を高めるために、さまざまな工夫を凝らしている。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。これ以外に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(同)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、著書多数。

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