グーグルのデータサービスが世界の消費を操る!? マーケティング最前線とは?
「週刊ダイヤモンド 2013/2/16号」の特集は『売れる仕組み 集客の秘密』。ビジネスは顧客が望んでいる商品、サービスを状況に合わせて的確に提供するというシンプルな作業の積み重ねである。今回は、俗人的なノウハウではなく、ITを駆使したり、科学的に考える「売るための仕掛け」を紹介している。
Part1「“スマホ消費者”を攻略せよ!」では、地図サイト会社のマピオンが運営する「ケータイ国盗り合戦」を紹介している。スマホや携帯の位置情報を使ったスタンプラリーゲームだ。
1月17日から2月18日まで実施されたのは墨田区・港区の全57スポットで実施された「2大タワーをとり戻せ」というイベント。スポットに2次元バーコードが記載されたポスターが貼ってあり、プレーヤーはそれを読みとることで「攻略」する。スポット攻略のたびに少しずつ雲が晴れ、全制覇で東京スカイツリーと東京タワーの全景が見られるようになるという仕組みだ。
さらに、通常のスタンプラリーの要素に加え、商店街にある対象店舗で500円以上の買い物をすると、「くにふだ」というカードがもらえ、ゲーム内の得点に変えられる仕組みがある。どの店でどの「くにふだ」を配布しているかという宝探し的な楽しみもある。イベント開始から20日で両区合わせて、9万人以上が訪れたほどだ。主要プレーヤーは仕事で外出の多い40代ビジネスマンが多いという。40代ビジネスマンたちは外回り中の息抜き的にゲームに参加、SNSや職場での話のネタにも使えるといったところだろうか?
このようにスマホを介してネットから店舗へ集客する、いわゆるO2O(オンライン・トゥ・オフライン)のサービスが増えている。クーポンやポイント発行で、顧客に足を運ばせる手法だ。
ただし、『ダイヤモンド』ではこうした試みを画期的な取り組みとして紹介しているが、どこまで効果が長続きするかは不透明だ。スマホの目新しさから消費者がサービスに参加しやすくなっている。SNSでの話のネタ作りという動機も多い……といった面も否定できないだろう。また、O2O(オンライン・トゥ・オフライン)のサービスを企業相手に提供するビジネスを展開する企業にとっての格好のPR記事になっていることも指摘しておきたい。こうしたビジネスはIT、のドッグイヤーよりも陳腐化が速そうな印象を受けるのだ。
Part2『“個客”を知り尽くせ』では、顧客に関する大量のデータを入手・分析することによって、売れる仕組みをつくる、いわゆる「ビッグデータ」の活用について取り上げている。コンピュータパワーの向上も手伝い、かつては考えられなかった高度なことができるようになっている。たとえば、購買履歴をもとにしたマーケティングだ。
米国では2012年1月に大手スーパー「ターゲット」の発行したあるクーポンが大きな波紋を投じた。ミネソタ州ミネアポリスに住む女子高生に、ターゲットから揺りかごとベビー服のクーポンが送られてきた。それを見た父親は「うちの子になんてものを薦めるんだ!?」と店に怒鳴り込んだ。ところが、ターゲットのデータでは、女子高生は妊娠初期の女性が購入するカルシウム、マグネシウムなどのサプリメントを買い、中期になると無香料のローションを購入するという購買行動をとっていたことがわかったのだ。案の定、その女子高生は妊娠しており、予測モデルから出産予定日までを推定してクーポンを送ってきたのだという。ビッグデータをもとにすれば顧客の未来の行動が分かってしまうのだ。
未来の行動がわかるという点では経路探索・移動ナビゲーションサービス「ナビタイム」の10年以上にわたって蓄積してきたデータとノウハウは公共交通の最適化と街づくりに活用されている。
たとえば、あるとき京王線「飛田給」駅(東京都調布市)の検索が急上昇する。「味の素スタジアム」(東京都調布市)でSMAPのコンサートが行なわれるために、ファンが最寄り駅の検索を行なっていたためだ。未来にどれだけの人が押し寄せるかがわかれば、交通機関や周辺の商店にとっては有用な情報となりうるわけだ。
なお、最も大量のデータ処理を行なっているのは米グーグルだ。昨年5月には自社で使っているデータ処理の技術を、企業向けビッグデータ分析サービス「ビッグ・クエリ」として外販をはじめ、日本の企業でも導入し会員のログデータ管理などに活用しているという。ビッグデータの処理、活用というのが大きなビジネスになっていきそうだ。
記事『スピードの時代だからこそ 飽きずに基本を追求せよ』では『残念な人の思考法』などの著書を持つ山崎将志氏のコメントが紹介されているが、興味深い傾向が紹介されていた。消費者向けビジネスはかつては「プライベートな時間」を奪い合っていたが、職場でパソコンを使えるようになってから一変した。「仕事」と「プライベート」な時間の区別があいまいになってきており、「仕事の時間」を奪い合うことが主眼になってきているという。
たとえば、氏が手掛けるサイトへのアクセスを見ると、多い時間は平日の朝10時から12時だという。スマホの普及でこの動きが加速している。
この記事を読んでいる読者はこの記事を何時に読まれているだろうか? 平日の朝10時から12時ではないだろうか。
(文=松井克明/FCP)