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「ダイヤモンド」vs「東洋経済」! 経済誌双璧比べ読み(5月第5週)

ダイヤモンド! 同梱のパブ雑誌の方が分厚いってどういうことよ!?

post_212.jpg(左)「週刊東洋経済  6/2号」
(右)「週刊ダイヤモンド  6/2号」
 今週号の経済2誌は、両誌ともにタイムリーな特集記事だ。「週刊東洋経済 6/2号」の特集は『脱TOEICの英語術』、「週刊ダイヤモンド 6/2 号」の特集は『ネットの罠』だ。

 まず、「週刊東洋経済」から見ていこう。これまで同誌は10年9月18日号で「1500語だけで話せる! 非ネイティブの英語術」という特集を組んでいる。「完璧な英語はもういらない。非ネイティブの英語こそ世界共通の言語だ。さあ話し始めよう」というスタンスでグロービッシュ(グローバルとイングリッシュを組み合わせた造語)を紹介し、別冊化するなど話題を呼んだ。

 それ以来の英語術となった今回のテーマは「脱TOEIC」。ちょうど発売日前日の27日日曜日がTOEICのテストだったということもあり、2時間の英語漬け試験で「こんな受験勉強みたいな英語試験に何の意味があるのだ!?」と思いながらもヘトヘトに神経が疲れて月曜日を迎えたビジネスマンが手にとりそうな企画だ。

 記事によると、楽天、ユニクロの英語公用語化をきっかけに企業がこぞってTOEICの点数(スコア)を英語力の判断基準として採用している。11年度受験者数は前期比3割増となる227万人だ。TOEICのスコアが給料に直結する、さらには、出世に関わり、その後の人生を左右しかねないような影響力を持ち始めているという。

 ところが、「グローバル人材」が求められるなかで、このTOEICはグローバルスタンダードではないという問題がある。TOEICはアメリカ・タイム社アジア総支配人(日本人)が米国の非営利団体に開発を依頼した日本向けのテストで、日本以外で業界標準とされているのは韓国だけというガラパゴス試験なのだ。

 また、日本向けのテストということもあって、リーディングとリスニングという受動的な2技能だけが出題範囲であり、グローバル人材に実際に必要なスピーキング、ライティングの2技能は出題されないのだ。このために900点という高スコアをとっていても、そのうちの7割の人は実際には喋れない……といった現象が起きているというのだ。TOEICのスコアが受験者の人生を左右するようになり、出題傾向を踏まえた対策テクニックが向上していることも背景にある。

 つまり、実際のコミュニケーション能力を示す指標としては4技能のうち2技能しかテストしないTOEICは、きわめて信頼性が低いということだ。このために「英語が喋れるようになればなるほど、TOEICのスコアが上がらなくなる」と英会話学校を辞めるビジネスマンも出てくる本末転倒状態が起きているというのだ。

 一方で、「脱TOEIC」の流れもできつつある。韓国だ。韓国は熾烈な受験競争や高い英語熱で知られているが、採用・昇進においてそのスコアが重視されるTOEIC大国でもあった。そんな同国で日本の文部科学省にあたる教育科学技術省が、今年から「国家英語能力評価試験(NEAT)という新型試験を始める。グローバル人材に実際に必要なスピーキング、ライティングの技能も含めた4技能をテストし、その試験を国家が認定する試みだ。韓国政府は、今後は大学入試や公務員試験の英語もNEATに置き換えることを検討しているという。

 こうなると、TOEICを重視するのは日本だけとなり、ますますガラパゴス化が進みそうだ。この流れで、「東洋経済」の結論は「英語の4技能のうち2技能しか問えないTOEICから脱却すべきだ」となり、TOEICが苦手なビジネスマンの心をガッシリつかむかと思いきや、その結論は、「ならば『TOEIC SW』を受けよう!」というものだ。

「TOEIC SW」とは、これまでのTOEICに足りなかったスピーキング(Speaking)、ライティング(Writing)の技能のテストになる。写真を見ながら商品を説明したり、自己紹介をしたりといった内容で、このテストで200点満点中180点以上とれる人は間違いなく英語が話せるレベルだという。

 この試験をより理解するために、「東洋経済」は「安河内哲也の白熱教室 完全攻略TOEIC スピーキング・ライティングテスト 音声講義付き」という記事もご親切に掲載している。安河内先生の白熱講義の音声ファイルは、東洋経済オンラインのサイトから無料でダウンロードできるという。

 TOEICと「TOEIC SW」は試験日時も方法も別物の試験だ。今後、評価基準にTOEICに加え、「TOEIC SW」をも企業が導入し始めたら……ビジネスマンにとっては、週末はひたすら英語漬けというトホホな日々になるかもしれない。

定期購読者向けのパブ雑誌の方が分厚いってどういうことよ!?

 続いて「週刊ダイヤモンド 6/2 号」に移ろう。本題に入る前に、実はこの連載では、両誌とも定期購読をしているのだが、今週は「ダイヤモンド」の封筒が分厚かった。まさか、宝島社女性誌並みの付録が入っているのかと思いきや、同梱されていたのは、『親と子のための最新教育情報マガジン Education DIAMOND 2013中学受験特集春号』という雑誌だ。案内状によると、これは「ダイヤモンド」もしくは「ハーバード・ビジネス・レビュー」の定期購読者に無料進呈したフリーマガジンだという。

「中学受験を目指されるお子様をお持ちの保護者の皆様に、私立中学校の最新教育情報を提供/お子様の進路についてご検討される際に、ご活用いただければ幸甚です」と書かれている。編集・制作は株式会社ダイヤモンド・ビッグ社広告・企画部。雑誌を開けば「編集部が直接取材した『生きる力』が身につく学校75校」という完全パブリシティ記事。きっと「『ダイヤモンド』の定期購読者には郵送しますので、多くの読者の目に触れることは間違いありません」とセールストークして広告料を集めようという狙いのフリーマガジンだろう。

 やはり、「Education DIAMOND」のホームページを見ると、「早稲田アカデミーの全6年生にも配布される」とあり、確かに早稲田アカデミーの広告もどーんと入っているではないか!  ダイヤモンド社は、こうしたパブ雑誌戦略も展開しがちなので、それほど驚くにはあたらない。  しかし、それにしても、「ダイヤモンド」本誌が126ページ、「Education DIAMOND 2013」が113ページ、しかも厚い紙を使っている「Educationk」の方が分厚くて、本誌が頼りなく感じられてしまう。

 では、特集だ。特集は「ネットの罠」。ソーシャルゲームの最大手・グリーとディー・エヌ・エーの売上高を大きく押し上げたコンプリートガチャ(指定された複数のレアアイテムを「ガチャ<カード合わせ>」を介してすべて獲得するとさらにレアなアイテムを獲得できるシステム)は景品表示法に抵触するおそれがあり、未成年も高額利用していると、消費者庁が規制に動く事態に発展した。社会問題化したことで、ソーシャルゲーム関連会社の株価は2~3割下落した。こうした時期に、タイムリーにソーシャルゲームの根底に横たわる問題に迫った特集だ。  PART1『無料ゲームの落とし穴』によれば、テレビCMでは「無料」とうたい、「珍しいアイテムが当たるかも」という期待感に加え携帯料金と合算して決済できる手軽さから、ソーシャルゲームは金銭的には豊かでなく暇を持て余す顧客層に受けた。ネット上ではアイテム交換の売買さえも行われ、金銭感覚が身についていない10代の射幸心をあおったために規制されたが、今回の消費者庁の規制後も問題は出てきそうだ。コンプリートガチャは制限されるものの、アイテムの出る確率をゲーム運営側が自由に操作できるガチャ(カード合わせ)のシステムは制限されない。つまり、パチンコと同程度の規制が必要なのだが、パチンコにおける風俗営業適正化法のような規制はない……といった問題がある。

 さらにPART2では『狙われる個人情報』として、普及するスマートフォンの無料アプリの中には、「無料」と引き換えに個人情報を外部に飛ばしている仕組みがあると指摘している。KDDI研究所の昨夏の調査でもアンドロイド端末向け人気アプリ400本のうち45%がなんらかの端末情報を外部の開発者に送信していたことが明らかになったという。つまり無料アプリは自分自身のプライバシーと引き換えにダウンロードすることになるというわけだ。

 また、ダダ漏れの個人情報は広告ビジネスにとって大きな魅力があり大金に化けるとして、大手広告代理店やPR会社によるスマホ錬金システムを告発し、「食べログ」騒動で物議をかもしたステルスマーケティング(いわゆるヤラセ広告)が日常的に行われている現状に警鐘をならす。

 ……たしかに、ひとつひとつの記事は読み応えがあるものの、どこか心に響かない。この違和感はいったい何かといえば、「ダイヤモンド」同梱のフリーマガジンにある。すべての定期購読者にフリーマガジン『Education DIAMOND 2013』を送りつけるという原始的なマーケティング。しかも、かなり読者が限定的な「私立中学」をテーマにした内容で、子供がいない読者、子供が自立した読者などには送っても何の効果もない、それどころか不愉快にさせることすらもあるというおそれに配慮が及ばない大雑把な広告展開だ。少しは定期購読者の登録情報をもとに、ターゲットを絞るなど、インターネット上の「ターゲット広告」を見習いなさいよ、と皮肉の一つも言いたくなってしまうのだ。

 今週のまとめ:今週は、ビジネスマンはTOEICによって(「東洋経済」)、10代はソーシャルゲームに(「ダイヤモンド」)によってカネを吸い尽くされている現状が明らかになったことは間違いないようだ。
(文=松井克明/CFP)

BusinessJournal編集部

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