日銀のマイナス金利政策は早ければ3月18、19日に開く次回金融政策決定会合での解除も視野に入ってきた。今年の春闘では、大企業を中心に昨年を上回る賃上げが実現する公算が大きく、企業が賃金上昇分を価格転嫁する動きも徐々に広がりつつある。ここでは、世界の中央銀行で唯一となったマイナス金利政策の解除後の新たな枠組みを示してみたい。日銀からの情報リークなどによる裏取り作業を踏まえたものではなく、数多くの取材から得たヒントをつなぎ合わせた現時点での個人的な予想と受け止めてもらえればと思う。
今月15日に発表された昨年10~12月期の実質GDP(国内総生産)は、個人消費や設備投資など内需が振るわず2期連続のマイナス成長となった。さらに、今年1~3月期もダイハツ工業の工場停止の余波で、成長率は低迷しそうだ。もっとも、日銀執行部内では「政策修正はあくまで先行きの物価や賃金動向を見極めて判断する」(幹部)として、GDP発表後も今春にマイナス金利解除を模索する構えに揺らぎは感じられない。
マイナス金利の解除後、日銀当座預金の超過準備への付利水準は0.1%とするのはほぼ間違いなさそうだ。所要準備の0%は維持しつつ、超過準備は0.1%の1層となる公算が大きく、その場合、短期金利である無担保コール翌日物レート(TONA)は0.1%をやや下回る水準で推移することが見込まれる。
短期金利の新たな政策目標は付利、TONAのどちらになるのか。個人的にはTONAを推したい。例えば、指示書(ディレクティブ)への具体的な記述が「0~0.1%」であれば「ゼロ金利政策」、「0.1%の付利と整合的な水準」などとすれば「超低金利政策」というイメージとなる。
日銀内では、ゼロ金利政策など特別感のある名称を付けると解除のハードルが上がるとの声も聞かれる。また超過準備の付利が0.1%の1層となりそうなことを踏まえれば、後者のような「超低金利政策」といった位置付けとなる可能性は十分あると思う。
一方、イールドカーブ・コントロール(YCC)に関しては、10年物国債金利の0%誘導は撤廃が見込まれる。現在、「1%をめど」としている長期金利の上限について、新たな水準の設定については両論ある。ただ、いきなり金利形成を市場にすべてゆだねることには慎重な考えとみられ、ディレクティブへの上限の明記が見送られたとしても、金利が急騰した際には指し値オペなどによる機動的な国債購入を通じ、相場を安定させるスタンスは強調するだろう。
政策修正後の国債買い入れ規模を巡っては、米連邦準備制度理事会(FRB)型のネットベースの国債保有高を機械的に削減していく手法には否定的な見方が根強い。政策の不連続性を避けるため、当面、現在の月間のグロスベースの購入額(6兆円弱)は維持される可能性が強いとみている。
これは、日本国債は償還が特定のタイミングに集中することから、日銀が国債保有残高を一定のペースで削減すると、月間の買い入れ額が激しく変動するためだ。
ちなみに現在は新規の買い入れ額と保有国債の償還ペースがほぼ見合いとなっている。ただ、今後、2013年に導入した異次元緩和下で大量購入した国債が償還を迎えるため、時間の経過とともに保有残高が自然と減少する「ステルスQT(量的引き締め)」となる。
日銀内では以前は国債買い入れ規模は政策委員会が責任を持つべきだとの意見があったが、足元ではややトーンダウンしている印象もある。購入量を金融政策の操作目標として、ディレクティブに明記すれば、量的ターゲットに移行することになる。一方で、日銀が月末に公表している国債買い入れ予定(いわゆるオペ紙)のように金融調節として購入量を決めるという位置付けにとどめる手法もある。
この点に関する詳細は判然としないが、政策委員会として一定の責任を持ちつつ、市場調節の裁量性とどのようにバランスを取るのか、という問題になる。個人的には、量的ターゲットは採用せず、金融政策の操作目標は短期金利のみのシンプルな形になるというシナリオを推したい。
残る論点としては、上場投資信託(ETF)の新規買い入れは停止し、保有分の処分策は先送りとなりそうだ。オーバーシュート型コミットメントも、すでに2%超の物価上昇が続いてきたことから撤廃が見込まれる。(経済部・宇山謙一郎)
(記事提供元=時事通信社)
(2024/02/29-14:01)