日銀が1日発表した6月の全国企業短期経済観測調査(短観)は、企業を取り巻く経営環境に不安材料が多いことを浮き彫りにした。深刻な人手不足や円安進行に伴う原材料高が企業経営を圧迫。物価高で個人消費は伸び悩み、コロナ禍後の人出回復で改善基調にあった大企業非製造業の景況感も足踏み状態となった。日本経済の足腰の弱さがあらわになっている。
◇訪日客消費に一服感
大企業非製造業の業況判断指数(DI)はコロナ禍で経済活動が制約された2020年6月以来、16四半期ぶりに悪化した。中でも小売りのDIは12ポイントの大幅悪化。長引く物価高で実質賃金のマイナスが続き、消費者の間に節約志向が広がっていることが響いた。
政府は1人当たり4万円の定額減税で消費のてこ入れを狙うが、「一過性のものでしかない」(日本チェーンストア協会)と政策効果には疑問の声が上がる。
けん引役だったインバウンド(訪日外国人)消費にも一服感が漂う。人手不足で需要に対応し切れず、宿泊・飲食や対個人のサービスはいずれも景況感が悪化した。日銀は「インバウンド需要の持続性に懸念も聞かれる」と説明する。
一方、大企業製造業のDIは小幅ながら2四半期ぶりに改善した。ただ、ダイハツ工業などで発覚した車の認証不正問題が6月にはトヨタ自動車などに波及。先行きの生産活動に不透明感が覆う。最近の円安進行は輸出企業には好材料だが、日本工作機械工業会の稲葉善治会長(ファナック会長)は「購入資材が軒並み値上がりしている。手放しで喜べる状況ではない」と警戒する。
◇価格転嫁は進展
人手不足とそれに伴う人件費の高騰も企業活動には重荷だ。雇用人員判断DIは全規模全産業でマイナス35(前回マイナス36)とほぼ横ばいで、人手不足感に変化はない。特に運輸・郵便や建設では、時間外労働規制の強化による「2024年問題」で人手不足が一段と深刻化している。
鳥取県内の中小運送会社は「長距離配送の依頼を断っている。仕事を引き受けられない」といい、業務に支障が生じているという。大手建設会社の幹部は「1960~70年代に完成した建物の更新が必要だが、人手不足で需要を取りこぼす可能性がある」と話す。
原材料価格や人件費の上昇を価格転嫁する値上げの動きは徐々に広がっており、販売価格判断DIは中小でも製造業が4ポイント、非製造業も2ポイント上昇した。これを背景に、物価上昇率の見通しは全規模全産業で3年後が前年比2.3%、5年後が2.2%と前回3月調査からともに0.1%上振れした。
価格転嫁が進んで物価上昇圧力が高まれば、日銀の追加利上げを後押しする材料になる。ただ、「サプライチェーン(供給網)の末端に行くほど価格転嫁が容易ではない」(大阪商工会議所の鳥井信吾会頭)のが実情。野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは「短観で示された消費の弱さは7月利上げを慎重にさせる材料となる」と指摘している。(了)
(記事提供元=時事通信社)
(2024/07/01-20:18)