「そうなると便利な場合には、ルールがなくても自然と便利なルールができる」。この現象を「ナッシュ均衡」というが、これを発見した数学者のナッシュは、1994年にノーベル経済学賞を受賞している。
別の例を挙げよう。スーパーの店頭に冷たいコーラの自動販売機がある。そこではコーラ一本が150円だが、スーパーの店内には98円で同じコーラが売られている。中まで入ってレジの列に並べば52円も安く買えるのにもかかわらず、結構多くの人が店頭の自動販売機でコーラを買う。
この現象は「取引コスト」と呼ばれる現象だ。それ以前の経済学では、アダム・スミスが提唱したように神の手が働いて一物一価に値段が決まるとされていたが、実際の人間はちょっとした手間が面倒だと考えるので、スーパーの店頭と店内という10メートル程度の距離しか離れていない場所でも、「取引コスト」に応じて価格が違うものが売れる。
このことを発見したロナルド・コース。彼は経済学者なのだが、とにかくこの業績で91年のノーベル経済学賞を受賞した。
心理学者として人間の脳がいかに不完全かをわかりやすく解き明かしてくれるダニエル・カーネマン。たとえばアメリカ人の学生に「ミシガン州で一年に起きる殺人事件は何件か?」という質問をした場合よりも、「デトロイト(全米屈指の犯罪都市だ)で一年に起きる殺人事件は何件か?」という質問をした場合のほうが、平均して返ってくる予想件数は多い。デトロイトはミシガン州の一部だとアメリカの学生なら誰もが知っているにもかかわらずだ。彼もこういった心理学的な事柄がいかに行動経済学に変な影響をおよぼしているのかを解き明かした業績で、2002年のノーベル経済学賞を受賞している。
いかがだろうか。彼らになら続ける気がしないだろうか。
普段、何か買い物をしたり、街で行動していて、何か不思議な行動をしてしまった際にでも、その理由を考えてみるといい。そこには門外漢でも受賞可能なノーベル賞級の発見があるかもしれないぞ。
(文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)